2021 Fiscal Year Research-status Report
朝鮮半島の内水面環境と水産資源の利用・採捕-朝鮮時代~近代を中心に
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19K01019
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森平 雅彦 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (50345245)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 朝鮮史 / 環境史 / 内水面 / 淡水魚 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度もCOVID19の影響により、当初予定した現地調査、訪問資料調査が実施できなかった。そのため移動を伴わずに実施できる資料収集と、収集済み資料の整理・分析を継続し、完成目処のたった検討課題について論文化を進めた。具体的には以下のとおり。 (1)朝鮮時代の洛東江上流の礼安県における官営のアユ漁梁(ヤナ)について、各時期の設置地点、施設の構造、建造・採捕における労働力動員の様相について明らかにし、漁梁の設置と操業に伴って地域社会に発生した下記①~④の状況の統合的な構図を、内水面環境における肯定的影響(生物資源、エネルギー資源、空間資源、精神資源)と否定的影響(水害)をめぐるコンフリクトとして模式化した。この成果論文は『朝鮮学報』(朝鮮学会)に投稿し、掲載許可を得ている。①禁漁措置や魚道遮断により地域住民を淡水魚の採捕・利用(生物資源)から疎外。②禁漁措置により地域エリートの川辺における文化活動・交遊活動(精神資源、空間資源)を制約、および上記活動の源泉となる施設(亭舎)や自然物(樹木、岩石)を漁梁資材として損壊。③船舶の運航(エネルギー資源、空間資源)の妨害。④堰き止め効果による河川氾濫の誘発(水害)。 (2)20世紀前半における慶尚道密陽住民の日記『退修斎日記』を分析した。洛東江下流域の士族家門出身者である日記の著者は、近代化が進む日本植民地統治下の激変期においても、親族・知己とともにアユなどを対象とする伝統的な集団遊戯としての川猟を行っていた。一方で、アユの網漁と同魚の利用に圧倒的な比重があった上流域に対し、コイ・フナの釣り漁とその祭祀・薬用利用の比重が高まる点に、下流域ならでは特徴がみられる。また養魚場の登場という、植民地近代における内水面資源の産業化も確認できる。 (3)このほか植民地朝鮮の業界誌『朝鮮之水産』より、当時の内水面漁業に関する情報を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
COVID19の影響により、韓国の河川やその比較検討材料としての日本のフィールドにおける現地調査がまったく実施できなかった。また近代史料を対象とする所蔵機関での訪問調査も、COVID19に配慮して自粛せざるを得なかった。これら研究期間の2,3年目に進めたかった作業がほとんど手つかずになった点は遺憾とするほかない。 ただその代わりに注力した収集済み史料にもとづく分析とその成果とりまとめ、およびその論文化は比較的順調に進んだ。平均して毎年度1本のペースで成果を公刊することができ、口頭発表や講演を通じて、学会や社会への成果還元も進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度が研究期間の最終年度だが、実施できずにいる現地調査や訪問資料調査は、出張可能時期のCOVID19の感染状況とこれに対する関係国・関係機関の対応方針によって規定されるため、機会をうかがうほかない。状況に応じて、補助事業期間延長申請を検討することにしたい。
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Causes of Carryover |
COVID19の影響により韓国および日本での現地調査と訪問資料調査ができなかったことによる。 しかし次年度は最終年度であり、依然としてCOVID19の影響も懸念されるため、次年度使用額を翌年度請求額とあわせて単年度で全額執行することが研究資金の有効活用とはいえるかは疑問も残る。そこで、補助事業期間延長申請も検討しつつ、近代朝鮮の内水面漁撈に関する史料の調査経費(旅費、複写費)として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)