2022 Fiscal Year Research-status Report
朝鮮半島の内水面環境と水産資源の利用・採捕-朝鮮時代~近代を中心に
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19K01019
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森平 雅彦 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (50345245)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 朝鮮史 / 環境史 / 内水面 / 淡水魚 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度もCOVID19の影響により現地調査が実施できず、文献資料の収集とその整理・分析を継続する一方、成果公表と論文化にむけての作業に注力した。具体的には次の(1)~(3)のとおり。 (1) 朝鮮時代の慶尚道礼安県烏川マウル(集落)に世居した光山金氏一族が遺した17~18世紀の複数の日記資料を用い、(a) 洛東江上流部における漁撈活動と対象魚、および漁獲物の消費・流通の季節変化を追跡し、(b) アユやコウライケツギョその他を対象とした網漁、漁梁(ヤナ)漁、毒流し漁、柴漬け漁、手づかみ漁、棒打ち漁、銛打ち漁など漁法の多様性、(c) 季節・時間帯・河川状況ごとの魚介の生態に対応したそれらの運用法を把握することができた。以上の内容は朝鮮史研究において政治的には官僚やその輩出母体、経済的には地主階層、文化的には儒教知識人・文人として論じられてきた士族(両班)層が、内水面環境では魚介の生態に通暁した水辺の生業者として存在したことを示す。 (2) 昨年度に引き続き植民地期の地方水産試験場の報告書を調査し、ワカサギの養殖・移植事業や、南東部地域における内水面漁場の実態調査の詳細を把握した。また近代における内水面環境での暮らしに関する新史料として、蟾津江中流の全羅南道求礼五美洞マウルに世居する文化柳氏一族の日記資料の存在を確認し、データ整理に着手した。 (3) 公刊成果として、昨年度中に審査を通過した投稿論文「朝鮮時代の洛東江上流における官営漁梁と資源をめぐる相克:礼安県の事例から」を『朝鮮学報』第259輯に掲載することができた。また韓国学中央研究院から招聘をうけて、「朝鮮時代の内水面環境と生活・生業」と題する単独講演(使用言語:韓国語)をオンラインによりおこなった。韓国の歴史学者、民俗学者、文化人類学者らに本研究課題の問題意識と成果を周知し、国際的な認知を得たことは、大きな成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
COVID19の影響のため韓国での現地調査が実施できず、また外部機関の所蔵資料に関して、web閲覧や現物・コピーの取り寄せが可能なもの以外の調査に制約が生じた。それでも、文献調査とこれにもとづく研究成果のとりまとめ・公開に関しては当初の予想を上回る進捗を見せている。とはいえ、文献資料分析の結果を現地の状況と実地に対照して確認する段取りは本来本研究で重視する手続きの1つであるため、過去に実施した現地調査成果をふまえる以上のことが出来ていない現状に鑑み、全体を「やや遅れている」と判定した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では本年度をもって研究期間を終了する予定であったが、1年間の期間延長を申請し、文献調査を継続しつつ、感染症の状況や協力予定者の諸事情を勘案しながら現地にアクセスする機会を作る。すべての希望事項について実施することは資金的に難しいが、優先順位をつけて現地確認をおこなうことにしたい。
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Causes of Carryover |
COVID19の影響により、国内外での現地調査、外部機関での資料実見調査が実施できず、学術行事の場における成果公表もオンライン開催となったため、旅費支出が発生しなかった点が大きい。次年度の使用額については、これまでどおり文献資料の収集や文房具等の消耗品の購入にあてるほか、感染症の状況を勘案しながらではあるが、現地調査や成果報告のための出張旅費に支出したい。
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Research Products
(2 results)