2021 Fiscal Year Research-status Report
オスマン帝都イスタンブルの都市改革と多文化社会の近代
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19K01021
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
上野 雅由樹 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (10709538)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | オスマン帝国 / イスタンブル / 多文化社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、19世紀のオスマン帝都イスタンブルにおける都市改革の過程を検討することで、イスタンブルの多文化社会が近世から近代へと移行するなかでどのように変化したのかを明らかにすることである。研究の3年目にあたる2021年度には、主にムフタル制の導入と運用に関して研究を行った。 ムフタル制とは、街区や教区、村落といった最小規模の行政単位にムフタルと呼ばれる役職者を任命し、住民管理や身元保証書の発行、徴税業務の補助といった業務を委ね、行政・司法当局に対して末端の地域社会を代表させるものである。これによりこのムフタルが、それまでムスリムのイマームやキリスト教徒の司祭といった宗教的職能者が主に担っていた地域社会における行政的な役割を肩代わりすることになった。このムフタル制の導入の興味深い点として、宗教宗派が人々を分ける基準の最たるものとされ、多宗教多宗派の住民を擁したイスタンブルにおいて、ムスリムやキリスト教徒、ユダヤ教徒といった宗教・宗派の異なる人々にほぼ同じ制度を導入し、それぞれにムフタルを任命したという点があげられる。本研究では、キリスト教徒やユダヤ教徒といった非ムスリムのあいだでのムフタル制導入がどのような問題を引き起こし、それがどのように解決されたのかをオスマン帝国の行政文書やアルメニア語史料をもとに検討した。その結果、ムフタル制をめぐっては、非ムスリムの聖職者に対する例外措置の容認からその見直しへと向かっていく過程を見て取ることができた。こうした成果をまとめた論文を、中東研究の分野で国際的に評価の高い学術雑誌、International Journal of Middle East Studiesに投稿し、掲載決定の通知を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度においても、新型コロナウイルスの影響により、予定していたイスタンブルでの史料調査を行うことができなかった。これにより、当初、計画していた検討事項のうちの1つに手をつけることができないまま、最終年度を迎えることになってしまった。新たに追加した検討事項も含めれば、当初予定していた以上の成果をまとめることができてはいるものの、その出版が予定されている論文集や雑誌の特集号に関しては、他の執筆者の事情により出版が大幅に遅れており、その目処が立っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度には、国際共同研究加速基金の助成を受けて長期間、イスタンブルに滞在する予定である。可能であれば、滞在期間を区別し、一部を本研究課題のための期間とすることで、当初予定していた史料調査を進め、進捗の遅れを取り戻したいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの蔓延により、海外での史料調査を行うことができなかった。文献の調達などにあてることができた部分もあったが、もともと、調査旅費に充てた金額の割合が高かったこともあり、旅費として使用することを予定していた額の大部分を次年度使用額とせざるを得なかった。 2022年度においては、可能な限り、日本から調達可能な文献・史料の購入などの経費に充てるほか、状況が許せば海外での史料調査を行いたいと考えている。
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