2019 Fiscal Year Research-status Report
オスマン帝国末期イスタンブル都市社会における近代演劇:帝国と大衆とを結ぶ装置
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19K01026
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
江川 ひかり 明治大学, 文学部, 専任教授 (70319490)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | オスマン演劇 / 祝祭 / 暦 / 大衆文化 / イスタンブル / オスマン帝国 / ラマダン(断食月) / カント(歌) |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、3年間の本研究プロジェクトの第一段階として基本的文献およびオスマン公文書の収集・整理および解読をすすめた。 第一に、江川ひかりは9月4日から7日にかけてイスタンブルにて、トゥルケル・イナンオウル基金映画―演劇博物館をはじめて見学した。さらに、ミーマール・スィナン大学芸術学科映画・テレビ専攻アスィエ・コルクマズ教授と面会し、オスマン演劇から現代演劇への橋渡し役を担った演劇家・名優ムフスィン・エルトゥールルが、映画製作において自己流を貫いたため没後に多くの批判が語られてきたこと、彼が監督した「ひよこ豆屋のホルホルアガ」の映像はイスタンブルには残存していないことが確認できた。コルクマズ教授のはからいで同大学の図書館において必要参考文献および論文を収集した。国内においては、オスマン演劇ポスターを解読し『明大アジア史論集』に寄稿した。 第二に、連携研究者奥美穂子は、2月13日から3月5日にかけてイスタンブル大統領府オスマン文書館およびトルコ宗教ワクフ付属図書館にてオスマン演劇と祝祭との接点を明らかにする公文書および文献・論文を収集した。文書調査をとおして、オスマン帝国では演劇と演芸とが大衆にむけられた社会的興業の場として、時にひとつの興業として実施されてきた状況が確認できた。加えて、オスマン帝国末期の「近代化」過程で公的に用いられる暦が、ヒジュラ暦(イスラム暦太陰暦)、ルーミー暦(ユリウス暦太陽暦)、さらには西暦(グレゴリウス暦太陽暦)へと併用・変遷していく様子が、演劇・祝賀を伴う公的行事の日付設定に反映されていることが確認された。 第三に、永田雄三および江川は、共著トルコ語版演劇本の校正作業を丹念にすすめた。 加えて三名のメンバーによって4月27日(土)に研究会を、12月には江川・永田、江川・奥が対面で、3月には新型コロナ禍をうけメールにて情報交換をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は研究計画にしたがって、江川ひかりおよび奥美穂子がイスタンブルへ出張し、関連する公文書および文献・論文の収集をおこなうことができた。奥が帰国した3月5日頃には、新型コロナの感染者がトルコ共和国においても拡大し始めた時で、ギリギリの帰国となったことは不幸中の幸いであった。その後、3月に本研究会を開催する予定であったが、新型コロナ禍の自粛に伴い、研究会は電子媒体による情報交換へ代替された。とはいえ、江川によるオスマン演劇ポスター「中国革命(1912)」に関する史料紹介も『明大アジア史論集』(第24号)に掲載・出版されたため、2019年度計画はおおむね順調に進展しているといえる。 永田雄三・江川ひかり共著によるトルコ語版オスマン演劇本の出版準備作業が新型コロナ禍の影響でやや遅れているが、2020年度には出版を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の実施計画は以下のとおりで、それらに変更はない。①オスマン古文書館所蔵公文書および公刊された同館所蔵演劇関連史料集(2015)を解読し、劇場建設や上演許可など演劇興業の真相を実証的に解明する。②演劇および祝祭における上演年月日が、ヒジュラ暦、ルーミー暦、西暦と併用され、最終的に西暦が導入されていく過程を実証的に解明する。③演劇興行において、大衆の人気を博した「カント(歌)と踊り」を披露するアルメニア女優・歌手が一世を風靡したことから、演劇と大衆娯楽文化との相互性を掘り起こす。以上三点の考察を進める過程で、近代演劇と政治との関係、演劇と消費生活・大衆文化との関係に焦点を絞り、演劇・祝祭興業が帝国と大衆とを結びつける装置として機能したことを解明することが目的である。 今後の作業はすでに収集した公文書・文献等をまず三名が個別に解読し、随時研究会・情報交換によって議論していく。zoomによる研究会開催も可能であるため、自粛要請の中でも特段の問題はない。ただし、文書解読にはやはり対面で議論することが不可欠であること、さらに2020年度に計画されている、トルコへの出張およびオスマン文学研究の第一人者であるハティジェ・アイヌル教授の日本への招聘に関しては、新型コロナの感染状況によって、一年、延期せざるをえなくなる可能性も大きいと考えている。 2020年度の研究成果の発信としては、永田・江川がトルコ語版オスマン演劇本の出版を鋭意すすめること、江川が引き続きオスマン演劇ポスターの翻訳・解説を継続し学術雑誌に発表すること、さらに東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所情報資源利用研究センターで公開されている「オスマン演劇ポスター」データベースの更新作業においてトルコ語版および英語版に加えて日本語版の開設準備をすすめていく所存である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、研究代表者江川のトルコ出張期間を校務のため短縮したことと、永田・江川共著によるトルコ語版オスマン演劇本の出版準備作業が新型コロナ禍の影響等でやや遅れたことなどが挙げられる。 したがって次年度は、新型コロナのトルコにおける感染状況にもよるが、トルコ語版オスマン演劇本の出版を目指したい。加えて、研究成果の発信に直結する東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所情報資源利用研究センターのウェブサイト「Welcome to Ottoman Theatrical Posters Exibition!(オスマン演劇ポスター展にようこそ)」を充実させていく所存である。そのために、本研究メンバーの専門領域ではない、オスマン演劇ポスターに記されたフランス語、アルメニア語、ヘブライ語部分の解読作業を各言語を専門とする研究者に解読していただき、翻訳謝金として支出することを計画している。
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Remarks |
本ウェブサイトは、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所情報資源利用研究センターに帰属している。同研究所所蔵のオスマン演劇ポスター・プログラム170点を公開し、閲覧・検索が可能となっている。主たるぺージはトルコ語だが、英語版も選択可能である。江川は、本ウェブサイトのベースとなる基本表を随時更新・加筆している。
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Research Products
(2 results)