2022 Fiscal Year Research-status Report
The role and status of women as represented in the wall paintings of the private tombs in the Old Kingdom of Egypt
Project/Area Number |
19K01034
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
畑守 泰子 愛媛大学, アジア古代産業考古学研究センター, 研究員 (40202402)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 古代エジプト / 古王国時代 / 墓壁画 / ジェンダー / 図像解釈 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、私人墓壁画の図像と銘文の分析を通じて、エジプト古王国時代の女性たちに期待された役割や社会的地位とその変化などについて検討するとともに、古王国時代の家族観や家族制度の変化を、階層分化などの社会の変化との関わりの中で考察しようとするものである。 今年度も海外での調査ができなかったため、以前に実施した現地調査で得られた資料と、発掘報告書等で公開されている資料を用いて研究を進めた。今年度は本研究の中心的課題である女性像のほか、男性の家族や親族、従者などの図像や銘文にも着目し、研究を進めた。現地での壁画調査の際に収集した資料を用いた研究成果の一部を、「私人墓におけるグラフィティあるいは付加銘文―エジプト古王国時代のイイメリの墓を例に―」として『資料学の方法を探る』(愛媛大学「資料学」研究会発行)第22号にて発表した。本論文は墓壁画の人物像に付加された銘文に焦点を当て、その意味や目的を探ったものである。また、同じく収集した墓壁画資料を一部用いて、所属機関の主催する講演会にて講演(「工房図と職人の世界」オンライン開催)を行った。これらの研究成果は、本研究の主題である女性像研究から派生・発展したものだが、これらの課題に取り組むことで、女性の役割や墓壁画に登場する女性図像の意味を総合的に考察することが可能になると確信している。 本年度も、メソポタミア史やギリシア・ローマ史、考古学、建築史など他分野の研究者とともにオンラインにて研究会(古代ジェンダー史研究会)を定期的に行ってきた。当研究会では、毎回さまざまな分野の専門家による研究報告と議論が行われており、特に考古学・歴史学や図像学などの新たな研究成果や、ジェンダー史の視角や方法論など、本研究にとって有益な情報を得る貴重な機会となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は国内での資料調査を一部行うことができたが、コロナ禍の影響など諸般の事情から海外での調査はできず、予定していた現地での資料収集がかなわなかった。そのため、引き続きこれまでの調査で入手した資料と、調査報告書等から収集した資料をもとに研究を進めた。墓壁画に登場する墓主の妻や母親などの女性家族のほか、家族以外の女性たちに検討対象を広げるともに、男性家族・親族、召使いなどについても資料の収集や検討を進め、その研究成果の一部を論文として発表した。 研究協力者の一部と主にオンラインでの会合をもったが、コロナの感染状況の見通しが困難であったため、予定していた研究成果報告の対面での公開研究会は、開催を見送らざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度も引き続き墓壁画・墓碑資料の分析を進め、これまでの研究成果とも併せて、古王国時代の墓壁画における女性像の特徴や変遷など全体像を把握し、研究のまとめを行っていきたい。女性以外の人物像についても可能な限り検討し、当時の社会における家族観やジェンダー認識の析出を目指す。また、年度内に現地調査を行うことができれば、以前の調査では不十分だったサッカラ遺跡と、エジプト中部の遺跡で調査を実施し、これまでの研究で得られた情報の確認と研究成果の補足・修正を行いたい。 研究成果の一部を学会での口頭報告、もしくは学会誌などへの投稿の形で発表する予定である。また、引き続き古代ジェンダー史の研究会を定期的に開催する予定であるが、今後さらに日本史や近現代などの分野の研究者の参加も得て、本研究課題にとって有用かつ広範な情報、およびジェンダー史に関する新たな視点を得る機会としたいと考えている。 なお2023年度は、本年度予定していて実施できなかった研究成果報告研究会を、複数の研究協力者を招聘して対面にて開催する予定である。
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Causes of Carryover |
今年度も、コロナ禍のため予定していた海外調査ができず、国内の資料調査も1度しか実施できなかった。また、参加した学会・研究会もオンラインのみ、あるいはオンライン併用で行われたため、結果的にほとんど旅費を使用しなかった。 次年度には、海外での現地調査を実行したいと考えている。また学会・研究会も対面のみに切り替えるものが増えてきたため、参加に際して旅費を使用する予定である。さらに、研究協力者を招聘した成果報告会を対面で開催するため、招聘に際して旅費等の必要経費の使用を予定している。
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