2020 Fiscal Year Research-status Report
西夏王国の地方支配―西夏語文献に現れる経略使・監軍司の職掌の解明を中心に―
Project/Area Number |
19K01036
|
Research Institution | Morioka College |
Principal Investigator |
佐藤 貴保 盛岡大学, 文学部, 准教授 (40403026)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 西夏 / 経略 / 監軍司 / 地方支配 / タングート / カラホト / 河西回廊 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画で予定していたロシア科学アカデミー東方文献研究所での西夏語文献の実見調査は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、2019年度に続き、2020年度も中止せざるを得なかった。 文献の実見調査ができないため、2020年度も2019年度と同様に、既刊の写真版を基にした文献研究を進めることとした。具体的には、2019年度に引き続き、地方統治機関とみられる経略や監軍司に関連する西夏の法令集『天盛禁令』の条文を解読するとともに、西夏の西北辺境にあたるカラホト遺跡から発見された多数の西夏時代の官文書の中から、特に経略が関係するもの4点を抽出し、写真版で判読できる範囲での解読を行い、経略の職掌や中央政府との結びつきを考察した。 抽出した4点の官文書を考察した結果、うち3点の文書は12世紀後半にカラホト遺跡付近に在住する同一人物の処遇(軍官への任用)について扱った文書であり、経略が中央政府の意向を酌みながら、地方の軍官の人選に関わっていることが明らかになった。さらにそのうちの1点の文書は経略が発出した文書にもかかわらず、地方軍団の長である正統が発出者として連署していたり、経略の幹部が中央官庁の幹部職を兼務していることが確認され、経略が地方に展開する軍団や中央政府と強い結びつきを有していたことが明らかになった。残るもう1点の官文書からは、経略が地方に配置されている軍団の幹部である副統に監軍司を中継せずに指示を出し、軍官の人選に関与していることが明らかになった。法令集『天盛禁令』の条文からも官文書の内容と対応する条文が検出され、経略が地方の複数の監軍司を束ね、中央政府と地方をつなぐ役割を担う官庁として位置づけられていたことが確認された。 以上の研究成果の一部は、2021年3月に開催された学会での報告(オンラインで実施)で公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続いたため、2019年度に続き、2020年度もロシア科学アカデミー東方文献研究所での西夏語文献の実見調査の中止を余儀なくされた。既刊の文献の写真版からのテキストの解読・考察を行ったが、文書の紙質・大きさ・断片どうしの接続の有無などは実見調査を行わなければわからないうえに、写真版では判読が難しい箇所が少なからずあることから、文献調査のみならず研究成果の公開の遅れにもつながっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
前述の通り、研究の進捗が遅れているのはロシア科学アカデミー東方文献研究所での西夏語文献実見調査ができないことによる。 新型コロナウイルスの感染拡大が収束に向かう、もしくは有効なワクチンの普及により海外渡航が可能な環境が整った場合は、2021年度末に実見調査を実施し、研究期間を1年程度延長して2022年度に研究の取りまとめを行いたい。 2021年度中の実見調査ができない場合は2022年度に調査を行ったうえで、研究の取りまとめを行いたい。 2022年度中の実見調査も困難な場合は、写真版でテキストを解読したうえでの研究の取りまとめを検討する。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、研究計画立案当初に予定していたロシアでの西夏語文献実見調査を中止したこと、研究成果を発表する予定であった学会(福岡県で開催予定)がオンラインでの開催となり、国内・国外の渡航旅費が不要となったため、次年度使用額が発生した。 これらの未使用助成金は主に、2021年度に、または研究期間の延長が認められる場合は2022年度に実施を予定しているロシアへの海外渡航費や、研究成果を取りまとめて英文論文を発表する場合の英文校閲の謝金として使用する予定である。
|
Research Products
(1 results)