2022 Fiscal Year Research-status Report
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19K01046
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Research Institution | Kobe College |
Principal Investigator |
小林 隆道 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (40727335)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中国史 / 宋代 / 文物 / 政治史 / 士人 / 隠逸 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、新型コロナウイルスの影響で前年度までに研究計画を大きく変更したことを受け、文物に関わる士人のうちでも「隠逸(隠者)」の存在に注目し、文献資料の分析に注力した。たとえば、范仲淹の書法作品「伯夷頌」は以前から注目していた文物であるが、それが北宋期に作成されてから約250年後の元代に范仲淹の子孫の手に戻るまで、どのような経緯を経たのかについて、元代隠逸・牟ケンの跋文を分析した。その跋文には、蘇州の范氏一族が、湖州呉興の牟ケンにどのように跋文執筆の依頼をしたのかが記されている。しかし、その跋文の文章の一部は、石刻された跋文と牟ケン文集に載る跋文とで、大きく異なることを発見した。文集の文章では、范氏と牟ケンとの間を取り持った人物が記されているが、石刻された文章では、范氏自身が直接牟ケンに依頼したことになっている。本来同じ文章であるはずなのに、なぜ異なるのか。牟ケンが作成した原文が、刻石された際に変更された可能性が高く、その変更の背景に政治的な要因があったことが推測されうる。ただ、文集で記された仲介人の確定ができず、その部分の解読が困難であった。しかし、各種の同時代史料を突き合わせることで、その文集記載の仲介人の人名は誤りであることを証明し、実際に誰のことを指しているのかを解明した。この実証により、文物の作成や伝来の背景に、どのような当時の具体的な政治状況があったのかを考察することが可能となった。 また、上述したのような史資料の問題は本研究が非常に重視している点であるが、平田茂樹・山口智哉・小林隆道・梅村尚樹編『宋代とは何か:最前線の研究が描き出す新たな歴史像』(勉誠出版、2022年11月)を刊行し、その中で宋代の史資料についての概説を担当した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
海外等での現地調査を行わないことにし、新たな視点を取り入れて文献資料の分析に注力することに方向転換したため。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間を延長し、当該年度までに進めた基礎的な分析をふまえ、研究成果の発表ができるように進める。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の影響の長期化により、当初予定していた現地調査を行わないことにしたため。 そのかわりに新しい視点を加えの文献資料の分析に重点を置くことし、その分析や、その分析成果の公表のために助成金を使用する計画である。
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