2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K01049
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡邊 竜太 東北大学, 国際文化研究科, GSICSフェロー (40596524)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | チェコスロヴァキア史 / チェコ現代史 / 中東欧史 |
Outline of Annual Research Achievements |
当年度には、研究の基礎的な準備作業として、必要な史・資料の収集、解読、整理を行った。 具体的には、Heribert Sturm, Eger. Geschichte einer Reichsstadt, Augsburg 1951; Andreas Wolf, Das Egerland in der Tschechoslowakei. Politik und kollektive Erinnerung in einer ehemalige Reichspfandschaft, in: Bohemia Bd.41, Nr. 1, 2000, S. 36-58などの先行研究を読み、研究対象である、チェコ西部のヘプ(エーガー)市の歴史的背景、両大戦間期の歴史的事件とその意義などを把握した。それと共に、2016~17年度に現地で収集した、ヘプ国立郡文書館(SOkACh)所蔵の財政・市有財産関係文書を整理し、両大戦間期のヘプの市有林、その他の市有財産の所有・経営状態を明らかにした。また、『ヘプ市公報』に掲載された、市予算審議の議事録から、チェコスロヴァキアの成立から1920年代末に至る同市の予算の構成、付加税率の推移、歳出対象や課税に関する論争と各党派の姿勢などを整理した。更に、1927年地方財政法と、それによって生じた市の財政上の困難に対する各党派の姿勢も明らかになった。 以上で解明したことを基に、(1)森林を中心とするヘプ市の市有財産の財政上の意義、(2)チェコスロヴァキアの1927年地方財政法をめぐる、自治行政の現場での論争の一事例としてのヘプ市での論争についてまとめ、次年度以降にその成果を発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究開始以前に現地で収集した史・資料が利用できたほか、必要な資料の多くが国内で容易に入手できたため、現時点ではおおむね順調ということができる。 但し、目下進行中の、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、学会・研究会等の中止、海外への出入国の規制、国内移動の自粛要請、図書館・文書館の閉館やサービス停止、大学施設への立ち入り制限など、研究の進行を妨げる事態が生じており、今後、史・資料の収集、成果の発表などに遅れが生じる惧れがある。 差し当たり、所与の条件の下での可能性を最大限活用し、計画に従った研究の遂行に努める。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、これまでの準備作業により明らかになったことに基づき、今後は、以下につき、整理し、成果を発表する予定である。 (1)森林を中心とするヘプ市の市有財産の財政上の意義。これまでに収集した史料より、ヘプ市が国内外に所有した、森林の規模、財政上の位置などが、部分的にではあるが、明らかになった。これを、付加税などの他の市の収入源と合わせて考察し、大規模な市有林をもつ都市の財政の特質や問題点を析出する。更に、ヘプ市の市有林が、国境を超え、バイエルンにも及んでいたことに着目し、そこから生じた、地域を主体とする国際関係を検討し、チェコスロヴァキア形成、ナチ・ドイツ支配、ドイツ人「追放」、冷戦、国境地域協力など、20世紀にこの地で生じた歴史的出来事に新たな光を当てることを目指す。 (2)チェコスロヴァキアの1927年地方財政法をめぐるヘプ市での論争。市町村付加税の税率を制限した、1927年の法律とそれによって生じた財政難をめぐって、自治行政の現場で、論争が生じた。その一事例として、ヘプ市における論争を検討する。同市の審議機関である、市代表部で多数を占めるドイツ人政党は、政府との協力の用意の有無により、(1)「消極派」(ドイツ国民党、ドイツ人国民社会党)、(2)「積極派」に区分され、後者は更に、(a)1926年より政権に加わっているドイツ人キリスト教社会党など、(b)1929年まで野党であったドイツ人社会民主党に分けられる。ヘプでは、これら三者の勢力が均衡しており、それぞれが予算審議に当たって各党の見解を表明した。そこで、ドイツ人政党が、ドイツ人住民の生活に密着した場で何を主張し、如何なる財政観・租税観をもっていたのかを明らかにする手掛かりとして、ヘプにおける論争に着目する。
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Causes of Carryover |
計画当初は、初年度に国内外での史料収集及び学会出席を予定していたが、日程等の都合がつかなかったため、旅費が支出されなかった。また、当初は、科研費によるパソコンの購入を見込んでいたが、従来研究に使用してきたパソコンが故障し、至急調達する必要が生じ、私費で購入したため、その購入に予定していた分の物品費が支出されなかった。 以上により生じた次年度使用額は、学会出席、資料収集等に伴う旅費、書籍や文房具等、研究に必要な物品費等として使用する予定である。
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