2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K01049
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡邊 竜太 東北大学, 国際文化研究科, GSICSフェロー (40596524)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 西洋現代史 / 東欧現代史 / チェコスロヴァキア現代史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度には、前年度までの研究の成果として、1927年のチェコスロヴァキアにおける地方財政法をめぐり、それがチェコ西部ヘプ(エーガー)市にもたらした影響と同市の対応、その議決機関における議論を検討した論文(「チェコスロヴァキア1927年地方財政法とドイツ人都市―ヘプ市の事例をめぐって―」『歴史』第136輯、80~105頁)を公刊した。 続いて、戦間期チェコスロヴァキアにおける市町村公有林の実態、とりわけその法的地位、チェコスロヴァキア成立後の変革の影響、市町村にとっての財政的意義、公有林とその公共性をめぐる同時代の議論などを明らかにすべく、同時代の関連法規、自治行政専門誌などを分析・検討し、今後の研究のためのノートを作成した。 また、戦間期チェコスロヴァキアに限らず、公有林、森林の公共性、都市近郊林、コモン(ズ)、森林入会権、里山など、今後の研究に関連する諸問題に関し、歴史学、経済学、法学、林学等の文献を広く読み、論点整理を行った。 以上を通じて、戦間期のチェコスロヴァキアにおいて、市町村が大規模な森林を所有していたこと、共和国成立後、市町村の森林所有は土地改革により拡大したこと、市町村有財産に関する法律は、市町村が所有する森林に社会政策的・公共的性格を与えたこと、森林は市町村に大きな収入をもたらしており、その収入に減税が期待されていた一方で、増大する市町村の歳出は、税負担の増大を不可避としたことなどが明らかとなった。以上のように、発達した資本主義国であるチェコスロヴァキアにおいて、公有林の役割とその公共性は失われず、むしろ増大したと考えられるに至った。以上の発見に更なる考察を加え、成果を発表することを2022年度の課題とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症拡大に伴う海外渡航の制限、国内移動の自粛要請、図書館・文書館の閉鎖や利用制限等のため、史・資料収集に支障が生じている。このため、当面は、すでに収集した史・資料によって論証できる範囲に研究対象を限定すると共に、他分野の研究の成果や学説史にも学び、所与の条件下で最大限可能な成果を挙げるべく務める。 また、肉親の病気のため、現在研究が中断している。今後、介護等の必要が生じる恐れがあり、研究の遅れが懸念される。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、両大戦間期チェコスロヴァキアにおける市町村公有林の実態解明を課題とする。まず、当時のチェコスロヴァキアにおける市町村公有林一般に関して、(1) 森林所有における市町村有林の位置、(2)チェコスロヴァキア成立後の諸変革―土地改革と市町村有財産改革―と市町村有林、(3)社会主義諸党の市町村有林改革構想を明らかにする。具体的には、統計史料により戦間期チェコスロヴァキアにおける市町村公有林の規模及び位置づけを明らかにすると共に、法令や同時代の論説などに基づき、新国家成立に伴う社会変革が市町村公有林とその役割にもたらした変化を解明する。とりわけそこでは、土地改革による市町村の森林取得、1919年市町村財産法の規定が与えた、市町村有林の用益における社会政策的性格、政策決定をめぐる社会主義政党の主張等を検討する。 続いて、大規模な森林を所有する市町村の事例として、バイエルンに隣接する西部のヘプ市の事例を取り上げ、(1)同市の森林所有の実態、(2)市有林の財政的意義、(3)市有林の公共性、(4)国境を越える市有林と市を主体とする国際関係を明らかにする。これによって、市町村の森林所有とその経営、それをめぐり成立する公共圏を明らかにする。加えて、ヘプ市が国境に位置し、その森林所有がバイエルンにも及んでいることから生じたと考えられる、市を主体とした国際関係についても考察する。ヘプ市が所有するバイエルン所在の森林は、第二次世界大戦後のドイツ人「追放」により市を追われた旧住民とヘプ市当局との間でその所有権が長らく争われてきたが、2012年に両者間の交流のための財団の設立によってその解決を見た。このような、ナチ・ドイツによる占領とチェコスロヴァキアによるドイツ人「追放」をめぐる対立と和解の歴史的前提を解明することを展望する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症拡大のため、海外渡航、国内移動に支障が生じ、また、文書館・図書館等が閉鎖されたり、利用制限が行われたりしたため、遠方での史・資料の収集を行うことができなかった。このため、史・資料収集に伴う交通費や宿泊費が支出されなかった。また、学会がオンラインで開催され、開催地への移動のための交通費、宿泊費の支出がなかった。以上のため、2021年度には、当初予定されていた旅費が全く支出されなかった。 2022年度に感染症による障害が解消されないならば、これにより生じた残額は、書籍の購入費等の物品費として支出する予定である。
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