2020 Fiscal Year Research-status Report
キリスト教ローマ皇帝理念と帝国経営の原理:9-10世紀ビザンツ皇帝と西方皇帝
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19K01052
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
大月 康弘 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (70223873)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 皇帝 / ローマ / ビザンツ / フランク / イタリア / 教皇 / コンスタンティノープル / アーヘン |
Outline of Annual Research Achievements |
9ー10世紀のヨーロッパ・キリスト教世界における「皇帝」称号をめぐる東西交渉に関する情報の整理・分析を、引き続き推進した。2年目の今年は、コロナ禍のため現地調査計画を断念し、西欧世界、特にイタリアから南フランス事情の理解を深めることに集中した。当該分野については、日本での先行研究が不在であった。この事情もあって、日本語での解説の必要を念頭に、主にフランス語による先行研究の整理・批判的分析、また史料所言の分析を行った。 焦点は、この地域(南フランスから北イタリア地域)の権力者たちが、ローマ皇帝権とどう切り結ぼうとしたか、であった。本研究では、観察の大枠を、コンスタンティノープル(ビザンツ帝国宮廷)とアーヘン(フランク王国宮廷)の外交交渉に置いている。とはいえ、オットー1世がなぜイタリアおよびイタリア諸勢力(ローマ司教ほか)と関係をもったのか、という問題は、南フランス事情を含んで複雑な構造を見ていた。当時の関係者間での使節のリスト、また伝来する史料所言の整理を行った。 他方、リウトプランド『オットー史』Historia Ottonisのラテン語テキストについては、翻訳を完了し、比較的詳細な注記の作成を進めた。同テキスト著者に独特な政治的バイアスをも研究対象としつつ、10世紀におけるイタリア事情の解明を進めた。関連テキストに見られる「ローマ皇帝」称号、および「ローマ」という一般的呼称の含意の検討を推進した。 関連テキストは比較的豊富に存在する。本年度も、重要と思われるラテン語、ギリシア語のテキスト事例について、なお試掘的な分析をするにとどまった。東西宮廷(皇帝)が互いの称号をめぐり政治的な駆け引きを行った時代だった870年代、また960年代のテキスト群が主な対象となった。同時期に比較的豊富に出現した所以を考察しつつ、史料所言における「ローマ皇帝称号問題」の分析を蓄積した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍のためヨーロッパでの現地調査ができなかったが、代替措置により分析作業量としては概ね順調と思料する。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、史料テキストの分析に注力する。ギリシア語(ビザンツ側史料)とラテン語(フランク、ローマ教皇ほかイタリア諸勢力側の史料)での「皇帝」含意の比較考量を進め、「ローマ皇帝」理念、「ローマ」呼称の含意の抽出に努める。分析成果は、和欧文での論文として発信する。また、コロナ禍が収束したら現地調査を行い、地理情報をも加味して国内外の研究会等で報告の機会をもちたい。しかし、現下の世界情勢を勘案すると、この方面での行動は難しい可能性があるので、まずは令和2年度の研究成果である南フランス・北イタリア地域事情の事実紹介を含む論文の出版に注力したい。併せてリウトプランド『オットー史』の日本語訳と解説を公表したい。なお、可能であれば、年度末にヨーロッパ(フランスor/andギリシア)に出張を行い、資料収集を兼ねて現地の同学者との交流を設定したい。今後の情勢を注視し、適切かつ柔軟に対処できるよう研究を進める。
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Causes of Carryover |
当初予定していた現地調査がコロナ禍による現地事情悪化のため実行不能と判断したため、令和3年度助成金と合わせて当該調査のための経費として使用することを計画している。
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Research Products
(5 results)