2019 Fiscal Year Research-status Report
聖人崇敬の表象から読み解く中世君主の政治的課題と統治理念:カール4世を事例として
Project/Area Number |
19K01055
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
藤井 真生 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (70531755)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 中世チェコ / 宮廷文化 / 図像学 / 王権 |
Outline of Annual Research Achievements |
カール4世研究の文献を収集し、とりわけ宮廷文化に関わる文献を読み進めた。また中世ヨーロッパの図像学研究についても理解を深めた。9月にはチェコへ渡り、カルルシュテイン城の聖十字架礼拝堂に描かれた聖人画群を確認するとともに、プラハ城およびチェコアカデミーで開催されていたヴァーツラフ4世の宮廷文化展などを訪れ、最新の研究成果が掲載されたカタログなどを収集した。加えて、プラハ城内のチェコ宝物庫において歴代君主が収集した聖遺物を確認した。 具体的な作業としては、①中世チェコにおいて教会を奉献された聖人、②カール4世の収集した聖遺物の調査、をおこなった。①からは、プシェミスル朝期と比較して、カールのルクセンブルク朝期に人気のあった聖人とカールのそれへの関与について明らかにした。②においては、カールの聖遺物収集の網羅性(計画性の希薄さ)を明らかにし、彼の聖遺物/聖人崇敬に態度についておおよその傾向を示すことができた。 それらを総合して、カルルシュテイン城聖十字架礼拝堂の聖人画の配置から、描かれた聖人を特定する作業をすすめた。とりわけ聖十字架礼拝堂西面下段および南面下段に並ぶ聖人君主の特定について、従来明示されていなかった君主の特定(および可能性の指摘)をおこなった。その成果の一部は論文集所収の一篇として来年度中に刊行される予定である。また、中世後期の彩飾写本に関する調査結果の一部は『中世後期の彩飾写本をめぐる研究と教育の可能性~『クルムロフ宗教論集』所収の『人類救済の鏡』から~』として、京都大学大学院文学研究科西洋史研究室編『フェネストラ:京大西洋史学報』4号(近刊予定)に掲載されることが決まっている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、中世チェコおよびカール4世時代の聖人崇敬の概要をつかんだうえで、カルルシュテイン城聖十字架礼拝堂の聖人画に関する分析――一部ではあるが――をすすめ、その成果を論文として執筆することができたため(刊行予定)。また、中世後期チェコの国際ゴシック芸術についても文献調査をすすめるとともに、上記のように彩飾写本に関する小稿をまとめることができたため。
|
Strategy for Future Research Activity |
カルルシュテイン城聖十字架礼拝堂の、まだ特定できていない聖人画(聖人君主以外)の分析と並行して、カール4世に関わる(カルルシュテイン城聖十字架礼拝堂以外の)宮廷礼拝堂や教会の聖人崇敬に関わる芸術作品を検討し、カールの政治行動と照らし合わせながら統治理念を読み解く作業を主にすすめることになる。 その際彼の編んだ『カレルの法典』なども分析対象として追加する。また、政治巡行(イティネラール)研究の成果を摂取し、時代ごとの彼の政策重点地域とその地域の聖人崇敬、あるいはその地での聖遺物収集の結果などを比較対照する。 今年度は海外調査には赴かず、すでに収集してある史料を読み込む作業に集中し、上記の諸問題に関する知見を深める予定である。
|