2020 Fiscal Year Research-status Report
聖人崇敬の表象から読み解く中世君主の政治的課題と統治理念:カール4世を事例として
Project/Area Number |
19K01055
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
藤井 真生 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (70531755)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中世チェコ / 宮廷文化 / 図像学 / 王権 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度から収集しているチェコの図像学研究文献の摂取に努めつつ、ルクセンブルク朝のカレル4世の治世から息子のヴァーツラフ4世時代へと続く、プラハの宮廷文化の連続性と、チェコの外側の領域への波及状況について確認した。カレルの時代には前王朝から継承した聖ヴァーツラフおよび聖ウィトゥス崇敬以外に、聖ジギスムンドゥスや聖パルマキウスの崇敬が大きくクローズアップされるようになるが、ブルグンド(アルル)王国および帝国(トリーア)・ロンバルディアの守護聖人である彼らに傾倒していくのは、明らかに皇帝としての政治的意図による。また、カール大帝への自らの準えと、ルクセンブルク朝所縁のハインリヒ2世への崇敬、さらに周辺王国(ハンガリー、デンマーク、スウェーデン、フランス、イングランド)で崇敬される聖人王の位置づけについても確認は済んだ。 一方、『カレルの法典(マイェスタース・カロリーナ』の分析からは、カレルがキリスト教皇帝としての自身の位置づけを明確にしつつ、長らく国王不在であったチェコ王国において、内政を担っていた有力貴族への対応に苦慮している様子が読み取れた。実際に、この法典は領邦議会で否決されており、法制度的な側面から王権の確立・伸張をはかることの困難が判明する。そうした政治状況をふまえると、聖人を取り込むことによりチェコ以外の諸王国に君臨する皇帝としての権威を示すことで、まずは政治文化的な領域においてチェコ王国内での政治的主導権を回復する意図に、一定の合理性のあることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記のように、何人かの聖人に関しては崇敬の政治的背景を確認することができたが、まだ状況の判然としない聖人の事例が複数あり、中間報告をおこなうにいたらなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
比較的政治的背景がわかりやすかった聖ジギスムンドゥスらに対比する形で、あまり地域色の強くない、つまり中世キリスト教世界において普遍的に崇敬されている聖人についての考察を進める。具体的には、聖女カテリナに対するカレル4世の個人的崇敬が、チェコ王国ないし神聖ローマ帝国内でどのように影響したのかを、イティネラール研究と図像研究の両面から検討していく。とりわけ、政治的なカレンダー(集会開催の日程)も考慮に入れること、領邦的な守護聖人と王朝的な守護聖人とを区分することに留意する。秋には学会報告をおこなう予定である。 本来であれば、3年目はチェコとドイツへ渡航し、カレルが建設させた各地の教会および装飾品の調査をおこなう予定であった。状況を慎重に見極めつつ、可能であれば実施し、現地調査とカタログ収集につとめる。
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