2021 Fiscal Year Annual Research Report
聖人崇敬の表象から読み解く中世君主の政治的課題と統治理念:カール4世を事例として
Project/Area Number |
19K01055
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
藤井 真生 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (70531755)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中世君主 / チェコ / 聖人崇敬 |
Outline of Annual Research Achievements |
ルクセンブルク家カール4世を事例として、中世君主の聖人崇敬を通じて政治的課題、統治理念、信仰世界の解明を試みた。具体的には、年代記に記録されたカールの聖遺物収集の傾向からみた彼の意図を考察し、あわせてカルルシュテイン城の聖十字架礼拝堂の壁画群における聖人君主にさいしての選択理由を分析した。彼が、壁画の中心に置いたカール大帝に自らをなぞらえつつ、イングランドや北欧、ハンガリー、アルルなどの聖人君主を配置し、チェコおよび帝国を中心とした東西南北世界に君臨するイメージを描いていたものと結論した。その成果は、「聖人に囲まれた国王――ルクセンブルク朝カレル四世と聖十字架礼拝堂の聖人画群」高田京比子・田中俊之・轟木広太郎・中村敦子・小林功編『中近世ヨーロッパ史のフロンティア』昭和堂、2021年、215-242頁として公表した。 また、そうしたカールの聖人崇敬にともなう諸々の行為が、当該領邦(ここではチェコ)の支配階層を構成する貴族や聖職者の政治的活動に与えた影響を、前王朝のそれと比較しつつ検討した。具体的な作業としては、証書史料から集会の開催日を網羅的に抽出し、聖人の祝日との関連性を示した。その結果、カールの宮廷サークルでは彼の意図が共有されていたものの、政治集会にまで影響を及ぼしていなかったことが判明した。この結論は、2021年11月3日の西洋史読書会大会(京都大学)において「王朝の聖人、領邦の聖人」と題して報告した。コロナ禍が改善したのちにカールの息子ヴァーツラフ4世時代の史料調査をさらにすすめたうえで、この成果もいずれ学会誌に投稿する予定である。
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