2019 Fiscal Year Research-status Report
In which sense was the Russian Empire an autocratic state?
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19K01056
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
吉田 浩 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (70250397)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 農奴解放 / アレクサンドル2世 / 帝政ロシア / 政治史 / 財政金融政策 / 専制 |
Outline of Annual Research Achievements |
ロシア皇帝がいかなる意味で専制君主であったかというテーマに対し、本年度は農奴解放事業を対象として二つの予備考察をおこなった。 1農奴解放開始のきっかけをクリミア戦争の敗北ではなく、クリミア戦争後の経済政策の失敗に求めるものである。財務官僚の手記、法令、統計およびロシア国立文書館所蔵の若干の未公刊資料を用い、以下の結論に達した。すなわちクリミア戦争中に蓄積された財政赤字にたいして財務省は予算の公開や経済の国家管理から民間のイニシアティヴへの移行という新政策で対応した。1857年まではこの政策により貨幣価値は保たれ、過度な赤字公債を発行することもなく、自由主義的経済政策は成功しつつあるように思われた。しかし1857年7月20日の公債金利の引き下げが致命的な金融政策となり、1858年には財政状況は悪化し、国家破産が現実味をおびるようになった。ロシア農奴解放の実施やその方法について迷っていた政府は、これをきっかけとして土地買戻し方式により農奴解放を実施することとし、農奴を抵当とする国家貸付が廃止されることにより貴族は農奴解放の実施を受け入れた。 2農奴解放の実施を宣言したとされる1856年3月30日の皇帝演説の意味を再考することである。1856年1月-3月における皇帝の冬宮における面会記録をロシア国立歴史文書館で調べることにより、アレクサンドル2世が誰と相談し、どのような状況下で演説草稿が書かれたかを考察した。その結果、当該時期に皇帝が繰り返し面会していたのは国家評議会議長オルロフ、パーニンをはじめとする「保守派」ばかりであり、従来の政策からの断絶である農奴解放の実施を積極的に支持する政治家との交流は認められなかった。したがって、これまでの史料調査の限りでは当該演説は農奴解放の実施を宣言するものとは言えないと考えられるが、この点について別の史料や状況証拠を材料として引き続き検討する
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は農奴解放、市制改革、農民行政改革などのパターナリスティック的支配からリベラリズムを基調とした市民社会形成への移行が問われた改革を素材として、ロシア帝国がいかなる意味で専制国家であるかを歴史具体的に検証することを目的としている。高度に政治的決断がくだされるとき、どのような場合に皇帝は自らのもつ専制権力を「専制」的に行使し、どのような場合に側近や専門家、世論の意見を尊重し専制権力を「法の支配」に基づき行使するのかが中心的課題である。本年度は計画通り農奴解放を素材とし、アレクサンドル2世のイニシアティヴがどれほどであったのかについて検討することができた。ロシア国立歴史文書館所蔵の皇帝の面会記録を調べることで一定の仮説に到達したが、別の史料を含め総合的に検討したうえで結論を出したいので、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
農奴解放(1861年)、市制改革(1870年)、農民行政改革(1889年)などについてロシア国立歴史文書館が所蔵する国家評議会、内務省ゼムストヴォ部、宮内省の史料を、ロシア国立文書館が所蔵する皇帝アレクサンドル2世、アレクサンドル3世の個人史料を用いて皇帝の専制権力の用い方について歴史具体的に検討することで、ロシア帝国がいかなる意味で「専制」国家であったのかという問いにこたえたい。
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Causes of Carryover |
設備備品費として計上している近代ロシア政治社会史、制度史関連書籍について、一部は2020年3月の出張中にロシアで購入したが、帰国がコロナウイルス関係で遅れたため、年度内の会計処理に間に合わなかった。また、同じくiPad proについてアップデート版を2020年3月に購入する計画をたてていたが、コロナウイルス関係で納入日が未定となったため、年度内に購入することができなかった。以上の予算については今年度に使用する計画である。
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Research Products
(2 results)