2021 Fiscal Year Research-status Report
フランス絶対王政期の国王裁判と警察:マレショーセによる治安維持活動と民衆
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19K01059
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Research Institution | Gakushuin Women's College |
Principal Investigator |
正本 忍 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 教授 (60238897)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フランス / 絶対王政 / 裁判 / 警察 / マレショーセ / 治安 / 民衆 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度も、COVID-19のパンデミックにより予定していた海外史料調査が全くできず、新たな史料の探索・補充ができなかった。そのため、これまでに収集したマレショーセの裁判文書を、昨年度の研究実施状況報告書に示したように、①マレショーセが摘発した事件の訴訟手続を史料に基づいて再構築すること、②訴訟手続が王令の規定通りの実施されているか否かを確認すること、③訴訟手続においてマレショーセの騎馬警察隊員、将校、裁判役人それぞれが果たした役割を明らかにすることに留意しつつ読み進めた。まず、マレショーセの訴訟手続については、被疑者の告発・逮捕から判決に至る手続を史料に基づいて再構成し、他の裁判所への移送の他に、手続が途中で中断・終了する事例など、いくつかのパターンがあることを確認した。次に、隊員の様々な活動を裁判文書から抽出し、被疑者逮捕に至る過程にもいくつかパターンがあることを確認した。これらについては、令和4年度中に研究会での報告を経て公表することを考えている。また、上述の作業を通じて、「裁きを求める公衆の叫び (clameur publique)」と証言命令書にもこれまで以上に注目するようになった。この2つへのアプローチが、マレショーセを含む絶対王政の法制度の解明に寄与するだけではなく、司法と民衆との関係のあり方を明らかにしうるからである。現在、基本文献を読み進めており、次回の海外史料調査の折に関連史料を収集する予定である。 その他、マレショーセの裁判管轄、訴訟手続に関する法令の理解をより充実させるべく、1670年の「刑事王令」のマレショーセ関連箇所およびマレショーセの裁判権、訴訟手続を最終的に確定した1731年2月の国王宣言の全訳した。前者についてはその前半部分を公表しており、その後半部分と後者を令和4年度に公表の予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度はフランスの少なくとも2つの古文書館での史料の調査および収集を計画していたが、COVID-19のパンデミックのため、再び渡航できなかった。私が収集し参照する史料のほとんどすべては手稿史料でインターネット上で公開されていないため、新たな史料の探索・補充ができず、研究期間の延長を申請せざるを得なかった。 また、同じくCOVID-19の感染拡大と私個人の健康上の理由により大学への出勤を取りやめ全面的なテレワークにしたこと、および諸事情により職場の研究室で十分な研究体制(特に文献の整理)を整えられないこと等により、これまで収集してきた史料のコピー、同時代文献、参考文献を限定的にしか参照できなかっため、研究の細部を詰められなかった。 さらに、演習を除く講義がすべてオンデマンドになったため1年を通じてその準備におわれたこともあって、予定していたようには研究を進められなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
ロシア・ウクライナ戦争の影響による渡航費用の急上昇、およびフランス・日本におけるCOVID-19の感染状況によっては、今夏に予定しているフランスでの史料収集が実施困難になる可能性もある。校務の状況を考えると来年2~3月に渡仏調査をすることは容易ではないが、その可能性も想定せざるを得ない。あるいは当該研究の1年間の再延長を申請することも視野に入れている。いずれにしても、フランスでの史料収集に関しては、ウクライナでの戦争の状況、日仏両国のCOVID-19の感染状況次第なので、令和3年度同様、手持ちの史料でできる限り研究を進めておきたい。 具体的には、第一に、マレショーセの訴訟手続を史料に基づいて再構成し、そこに見られたいくつかのパターンについて分析を進める。第二に、被疑者逮捕に至るいくつかのプロセスについて分析し、マレショーセの騎馬隊員の治安維持における役割を検討する。第三に、マレショーセから他の国王裁判所に訴訟が移送される事例に注目し、マレショーセとその他の裁判所との関係を明らかにし、国王裁判所体系の中にマレショーセを位置付ける。また、上述の「裁きを求める公衆の叫び」と証言命令書についても手持ちの史料の中に該当事例を探しつつ、参考文献の更なる収集に努めたい。 さらに、令和3年度に引き続き、マレショーセの裁判管轄、訴訟手続をより深めるべく、昨年度に引き続き、「刑事王令」のマレショーセに深く関連する箇所および1731年2月の国王宣言の翻訳・注釈を完成させ、公刊する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、第一に、COVID-19のパンデミックにより予定していた海外史料調査および国内出張が全くできなかったこと、第二に、COVID-19の感染拡大に伴う出勤自粛など諸事情により個人研究室が稼働せず参考文献の購入を控えたことによる。 次年度に繰り越す金額は、主に出張旅費(国内および状況が許せば国外)と文献購入に当てる予定である。
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