2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K01063
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鈴木 直志 中央大学, 文学部, 教授 (90301613)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸畠 宏太 敬和学園大学, 人文学部, 教授 (20202335)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 軍事扶助 / プロイセン軍 / ドイツ史 / 傷痍軍人 / 近代史 / 軍隊と都市 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、18世紀後半から19世紀後半のプロイセン・ドイツ軍を対象に、軍事扶助(傷痍兵、老年兵や彼らの家族の扶養)の制度的変遷を跡づけるとともに、傷痍兵たちの生活と制度運営の実態を、具体的な駐屯都市に焦点を当てて考察すること、そしてこの軍事扶助の観点から軍隊の近代化を再考することである。 課題の採択を受けて、さっそく4月に研究集会が開かれ今後の方針が話し合われた。夏のドイツ出張では、史料ならびに文献収集で大きな成果が得られた。まずベルリン州立図書館では、軍事扶助に関する基本文献を収集し、ポツダムの軍事史研究所図書館では、丸畠が中心になって退役兵のための文官任用制度、軍隊衛生制度、退役傷病兵に関する文献と史料を収集した。また今回初めて訪れたドレスデンの州立図書館においては、ベルリン、ポツダムでは焼失のため見られない文献を多数集めることができ、非常に有益であった。文書館はハレ市立文書館とデッサウのザクセン=アンハルト州立文書館分館を訪ねた。収集作業を重ねるうちに、軍事扶助というテーマは兵事史料以外に、救貧行政やポリツァイ(近世においてこの言葉は「よき秩序、よき社会状態」を意味する。具体的には治安維持、経済統制、宗教・身分秩序の維持)、文官任用制度といった行政文書からのアプローチが有効であるとの手応えを得た。傷痍兵やその家族はほとんどが救貧の対象であり、また軽度の傷痍兵は文官任用されるかたちで様々なポリツァイ業務を、主に下級役人として担っていたからである。 なお、史料収集の成果を持ち寄り、各個別課題の論点を出し合い討議するために研究合宿を3月下旬に予定していたが、新型コロナの影響で残念ながら実施できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
史料と文献の収集はほぼ研究計画どおりに遂行できた。ドレスデンの州立図書館は当初の計画にはなく後に予定に組み込んだ訪問地であったが、上述のようにベルリン、ポツダムでは焼失のため見られない文献を多数集めることができ、有益であった。ハレの市立文書館でもおおむね順調に史料調査ができたが、ただ閲覧したかったいくつかの史料がちょうどマイクロフィルム化の最中で閲覧できなかった。これについては次回の調査で目的を果たしたい。 軍事扶助に関する史料研究を展開するにあたり、アプローチのための具体的な視座が得られたことも大きな収穫であった。今後は当面のあいだ、鈴木は18世紀プロイセンの軍隊とポリツァイとの関係、丸畠は19世紀ドイツの文官任用制度を切り口にして、ハレ市のケースワークに取り組むことになろう。それとともに、軍事扶助のさらなる研究の可能性として、軍隊における衛生問題へも射程を拡げてゆきたい。 昨年度末に予定していた研究合宿が新型コロナのため実施できなかったので、これを次年度の早いうちに行い、昨年の成果を互いに総括して新年度の調査研究の方針も詳しく相談したい。新型コロナの被害はわが国でもドイツでも甚大なため、夏の出張は難しくなるかもしれない。その場合は2月や3月、場合によっては2021年度に出張を延期する可能性もある。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の史料・文献収集については、1)三月前期から1850年代までのハレ市における軍事扶助事業の実態に関する史料や文献、2)救貧行政、ポリツァイ、文官任用制度の観点から軍事扶助を捉える場合に重要となる史料や文献、の収集を優先的に行う。 ドイツ出張では、基本的に昨年度と同じ場所で史料と文献の調査を行う予定であるが、それらに加えてベルリンの枢密文書館、ならびにマクデブルクのザクセン=アンハルト州立文書館本館でも、可能であれば史料の閲覧と収集を実施する。 研究のアウトプットとしては、昨年度得られた資料をもとに、これまでの研究成果を「軍隊と社会の歴史」研究会で発表する。さらにそこでの討論をもとにして論文の執筆・発表も予定する。 年度末には研究合宿を実施し、各自の分析結果を突きあわせた上で、鈴木は新しい軍事扶助史の可能性について、丸畠は駐屯都市と軍事扶助についてまとめ、討議する。その際、可能であれば軍事扶助に携わる日本史研究者を招聘し、日本史との対話可能性をめぐって意見交換をする。
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Causes of Carryover |
予定していた図書が年度内に到着せず決算できなかったため。次年度では物品費として計画する。
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Research Products
(4 results)