2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K01063
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鈴木 直志 中央大学, 文学部, 教授 (90301613)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸畠 宏太 敬和学園大学, 人文学部, 教授 (20202335)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 軍事扶助 / プロイセン軍 / ドイツ史 / 傷痍兵 / 近代史 / 軍隊と都市 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究成果として、鈴木は小論「常備軍時代のドイツにおけるポリツァイと軍隊」を、丸畠は論文「作家ルイ・シュナイダーLouis Schneiderと軍事雑誌『兵士の友Soldatenfreund』 ―社会の軍事化の原風景か?ー」を発表した。
前者の鈴木論文では、プロイセン軍に1788年に配備された傷痍兵中隊について言及した。これは、フリードリヒ・ヴィルヘルム2世の即位後すぐに取り組んだ傷痍兵の待遇改善の一環で、二十年以上勤めた比較的軽度の傷痍兵で構成される部隊であった。彼らの主要業務は平時の駐屯地における衛兵勤務であるが、街路の清潔維持や消防ポンプの動作確認など、広い意味での都市秩序の維持=ポリツァイに深く関与していた。また18世紀末のプロイセンでは、農村においても傷痍兵が文官任用され、伝達吏、農村巡察官、下級森林官、収税吏といった下級役人として様々なポリツァイ業務を担っていたことも判明した。これらの知見は、今後の本研究課題に生かされるであろう。
後者の丸畠論文は、本研究課題のテーマについて直接的に論じたものではないが、今後の研究に有益な示唆を与える内容となっている。それは、検討の対象となった『兵士の友』についてである。この雑誌は軍隊の内部でのみ配布された部内誌で、戦史や他国軍の情勢などの様々な情報を提供する雑誌であるが、その中に軍隊生活や兵士の待遇などについて、ユーモアを交えながら描いている項目がある。この部分に視座を据えれば、軍が兵士に向けてどのような(軍事扶助も含む)待遇をアピールしていたかを究明することができると考えられるのである。すなわち、軍事扶助を実態としてだけでなく、兵士にどのように伝えられ、アピールされたかという言説のレベルでも検討するために、『兵士の友』は有益な史料となりうる可能性が高いのである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
鈴木、丸畠ともに論文を一本ずつ発表し、口頭報告もそれぞれ一回ずつ行うことができた。その意味で研究のアウトプットはある程度順調だったということができるが、しかしながらやはり2020年度の本研究課題の進捗は、新型コロナウイルスの世界的蔓延により、全体として芳しくなかったと言わざるをえない。それは、世界中で行われた移動制限のためにドイツ出張がかなわず、史料と文献の収集ができなかったからであり、さらには、大学の授業の全面オンライン化に伴って、その準備と対応にかなりの時間を費やさねばならなかったからである。
本研究課題では夏のドイツ出張の際、二人で共同で任地に赴いている。これにより、史料や文献をたんに収集するだけでなく、その作業を通じて二人の間で緊密な情報交換をすることが可能であった。この情報交換が研究の進捗に大変有意義だったのだが、20年度はそれができなかった。昨夏の場合、この作業の代わりに行っていたのは、もっぱら秋学期のオンライン授業のための準備であった。また研究者を招いてオンラインで意見交換などするには、年度はじめの頃はソフトウェアを使いこなす技能にいまだ乏しく、さらにはネット回線などのインフラも必ずしも整っていなかったこともあり、少なくとも年度の前半は不可能であった。オンラインでの実施は年度の後半になってようやくある程度可能になったが、授業との兼ね合いなどもあり、この時期においてもなお本格的な運用に至らなかったのが実情である。もちろん、その間二人は電話やメールを通じて研究の現状についての意見交換をするにはしたが、残念ながらそれ以上のことはできなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
海外渡航が厳しく制限される状況は、2021年度も引き続き変わらないようである。それゆえ今後の研究方策としては、すでに収集した史料と文献を改めてじっくり読み込むことが主となろう。前欄で記したように本研究課題の2020年度の進捗状況は芳しくなかったことから、この読み込みを通じてできる範囲内で20年度にやり残した課題に取り組み、テーマに関する認識をさらに深めてゆきたい。具体的には、まず軍事扶助の制度的変遷についてまとめ、次いで軍事扶助と救貧行政、ポリツァイ、文官任用制度との関わりについて検討する。
その間にもしドイツ出張が可能になれば、20年度に予定していた史料および文献の調査を行う。すなわち、1)三月前期から1850年代までのハレ市における軍事扶助事業の実態に関する史料や文献、2)救貧行政、ポリツァイ、文官任用制度の観点から軍事扶助を捉える場合に重要となる史料や文献、について、ベルリン州立図書館、ポツダムの軍事史社会科学センター図書室、ザクセン州立図書館、ベルリンの枢密文書館、ハレ市立文書館ならびにマクデブルクのザクセン=アンハルト州立文書館本館にて収集をする。
また可能であれば対面で、無理ならオンラインで各自の分析結果を突きあわせる機会を設ける。さらに軍事扶助に携わる日本史研究者を招聘し、日本史との対話可能性をめぐって意見交換をする。20年度において分析結果の討議はごく限られたかたちでしか行えず、日本史との対話は実現できなかった。オンライン会議はかなり普及したので、今後これらを実現するのはもはや難しくないだろう。最後に、2021年度も感染状況が厳しく、年度中のドイツ出張が難しいと見込まれる場合には、研究課題の実施を一年間延長することも検討する。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの世界的蔓延により、予定していたドイツ出張がかなわず、史料と文献の収集ができなかった。そのため、旅費に相当する経費をほとんど使わぬまま次年度を迎えることになった。
次年度にもしドイツ出張が可能になれば、20年度に予定していた史料および文献の調査を行う計画である。すなわち、1)三月前期から1850年代までのハレ市における軍事扶助事業の実態に関する史料や文献、2)救貧行政、ポリツァイ、文官任用制度の観点から軍事扶助を捉える場合に重要となる史料や文献、について、ベルリン州立図書館、ポツダムの軍事史社会科学センター図書室、ザクセン州立図書館、ベルリンの枢密文書館、ハレ市立文書館ならびにマクデブルクのザクセン=アンハルト州立文書館本館にて収集をする。
|
Research Products
(4 results)