2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K01063
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鈴木 直志 中央大学, 文学部, 教授 (90301613)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸畠 宏太 敬和学園大学, 人文学部, 教授 (20202335)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 軍事扶助 / プロイセン軍 / ドイツ史 / 傷痍兵 / 近代史 / 軍隊と都市 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究成果として、鈴木は「近世プロイセン軍における諸侯連隊-家門政策の手段としての連隊」を、丸畠は「忘れられた将軍カール・フォン・デッカー」を発表した。
いずれの論文も本研究課題のテーマと直結するものではないが、前者では、神聖ローマ帝国諸侯が連隊長を務める連隊を分析することにより、連隊の不均質性という近世常備軍の重要な特質を指摘した。この論点は、軍事扶助事業の問題とも関連する可能性が高く、今後より掘り下げて検討することになろう。また後者の論文では、デッカーが各部隊レヴェルで形成に努めた、将兵ならびにその家族の親睦団体や相互援助組織を今後の課題に挙げている。その意味でこの論文は、19世紀前半の軍事扶助を考察するための重要な基礎をなす。
昨年度のもう一つの研究実績として、日本史研究者を招いて軍事扶助の問題について意見交換したことが挙げられる。2022年2月に科研講演会を開催し、幕末維新期について淺川道夫氏から「維新政府による戦死傷者対策」との報告を、明治期については竹本知行氏から「日露戦争の遺家族支援-京都の場合」との報告をいただいた。講演に続いて活発な意見交換が行われ、それを通じて、日本史研究においても軍事扶助事業の問題はそれほど開拓されているわけではなく、研究の余地がまだかなりあること、また幕末維新期ならびに明治期の日本は、本研究課題の対象である19世紀転換期のプロイセンと十分に対話可能であるとの知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
鈴木、丸畠ともに論文を一本ずつ発表することができたが、昨年度の本研究課題の進捗は、一昨年度ほどではないものの、良好だったとは必ずしも言いがたい。新型コロナウイルスの世界的蔓延に伴って国内外でいまだ広範に移動が制限され、ドイツ出張はかなわず、史料と文献の収集ができなかったからであり、結果的に研究課題の実施を一年間延長することにもなったからである。
もとより、オンライン授業は二年目になり、一昨年度ほど他の業務を圧迫することはなくなった。そのため本研究課題を推進する時間的・心理的余裕が生まれたことも事実である。丸畠は、デッカーが手がけたとされる将兵ならびにその家族の親睦団体や相互援助組織について、すでにある程度のところまで論文執筆を進めることができたし、日本史研究との対話についても、上述のように、軍事扶助事業に関する講演会を開催してこれを実現し、新たな知見を得ることができた。
軍事扶助の制度的変遷をまとめる作業と、ハレ市の史料に基づいて軍事扶助と救貧行政、ポリツァイ、文官任用制度との関わりを検討する作業については、現時点においてなおいっそうの進捗が求められる状態にある。後者については史料調査の不足がその原因の一つなのであるが、今年度にドイツ渡航が可能であれば十分な調査を実施し、不可能であるならすでに収集した史料を深く読み込むことでこれに対処したい。
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Strategy for Future Research Activity |
ヨーロッパでは新型コロナの規制が大幅に緩和され、わが国でもじきに水際対策を緩和すると報じられているが、変異ウイルスの蔓延も懸念され、海外渡航を取り巻く状況はいまだ不透明である。それゆえ今年度も、基本的には、すでに収集した史料と文献を読み込むことを主体にして研究を展開することになろう。鈴木は18世紀プロイセンにおける軍事扶助の制度的変遷についてその概略を示し、丸畠は長期兵役兵士・下士官の相互扶助に関する論文をまとめ、さらにその延長として、かつて取り組んだ長期兵役者の文官任用制度について、ハレ市を具体例に再考する。
もしドイツ出張が可能であれば、昨年度と同様であるが、すでに予定している史料および文献の調査を行う。具体的には、1)三月前期から1850年代までのハレ市における軍事扶助事業の実態に関する史料や文献、2)救貧行政、ポリツァイ、文官任用制度の観点から軍事扶助を捉える場合に重要となる史料や文献、について、ベルリン州立図書館、ポツダムの軍事史社会科学センター図書室、ザクセン州立図書館、ベルリンの枢密文書館、ハレ市立文書館ならびにマクデブルクのザクセン=アンハルト州立文書館本館にて収集をする。
また今年度は、同時代のヨーロッパ諸国、例えばフランスやロシアなどにおける軍事扶助事業について、研究者を招聘して意見交換の場を設けたい。軍事扶助に関しては、日本史研究ではまだ未開拓の部分が多々あるとのことだったが、他のヨーロッパ諸国における研究の現状がどのようなものであり、どのような史実が知られるのかについて、知見を広げたいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナに伴う国内外の移動制限のため、予定していたドイツでの史料収集ができなかったため。今年度に制限が緩和されれば、史料収集を実施する予定である。
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Research Products
(5 results)