2021 Fiscal Year Research-status Report
The Integrated Study of the American Revolution and Abolitionism, seen from the Land and the Sea
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19K01067
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
肥後本 芳男 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (00247793)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アボリショニズム / 言論の自由 / キリスト教福音派 / アメリカ反奴隷制協会 / イギリスの奴隷制廃止 / 第二次大覚醒運動 / トマス・ジェファソン |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、19世紀前半のアメリカ合衆国におけるアボリショニズムの高揚とそれに対する西部コミュ二ティでの抵抗・暴力について一次史料や二次文献を収集し、研究を進めた。1830年代後半が合衆国のアボリショニズムの大きな転換点とみなしてよいことを再確認できた。とくに、イリノイ州南部のオールトンで1837年11月に起きた反アボリショニスト暴動は注目に値する。この暴動は地方新聞の編集・発行者でアボリショニストのエリジャ・ラヴジョイの殺害に帰結し、全米の世論に大きな影響を及ぼした。この事件を境に、政治に積極的に参入し奴隷制廃止への道を模索するグループと、政治と距離を置き道徳的な説得や請願を通して奴隷制廃止を目指すグループに急速に分裂していったことが明らかになった。 前年度から計画的に収集してきた資料をもとに、第1の研究課題である「アボリショニストのアメリカ西部への進出とその社会・政治的影響」についての分析に取り組んだ。具体的にはオールトン暴動がおこる以前の自由州のオハイオやイリノイと、オハイオ川を隔てた奴隷州ミズーリとの州境コミュニティでの奴隷制をめぐる論争について史料を手掛かりに考察した。現地調査は十分にできていないものの、地域コミュニティの変容や対立過程についてはほぼ把握できた。その成果の一部は、同志社大学アメリカ研究所第1部門研究会にて「ジャクソン期アメリカ西部へのアボリショニズムの浸透と暴力」と題する研究報告(2021年7月24日)をおこなった。 第2の研究課題「太平洋北西部地域への入植と奴隷制拡大をめぐる論争」に関しては、「海の循環」研究プロジェクトに加わっている関係もあり、まず北米北西部沿岸域についてジェファソンをはじめ初期の合衆国の指導者が、いかなる歴史的文脈の中でアストリア砦を起点にするオレゴン領土の利害を認識していたのかについて掘り下げた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究課題の進捗に若干の遅れが生じている第一の理由は、現地調査が十分に進まなかったことである。2021年度は本務校から在外研究の機会を与えられたこともあり、米国のアーカイブでの本格的なリサーチを行うことを予定していた。しかし、コロナ禍が長期化したこともあり、あいにく夏まで主要な文書館は閉館されたままであった。9月以降一般の研究者に段階的に閲覧室が開放され始めたので、12月にパサディナのハンチントン図書館での5日間のリサーチを敢行した。図書館利用のための面倒な事前予約の手間や1日の閲覧時間も限られていたため、満足な史料閲覧・収集ができたとはいいがたい。また冬にニューイングランドで予定していたリサーチも大雪などの天候不順やコロナ感染者数の増加で国内線のキャンセルが相次ぐとともにマサチューセッツ歴史協会の資料閲覧室の研究者への開放が遅れたため、閲覧室をタイミングよく利用することができなかった。 第二の理由は、本研究課題と他の研究プロジェクトとの研究時間の分配・調整が円滑に進まなかったことにある。本研究遂行者は、19世紀アメリカの「ポピュリズム史研究会」に加え、グローバルな視点から近代史の再解釈を目指す「海の循環」研究会の2つの研究報告の準備にかなりの労力と時間を費やすことになった。1830年代に頻発するようになった人種暴動や反アボリショニスト暴動をポピュリズムの一つの表出とみれば、合衆国の政治文化へのアボリショニズムの影響を探る本研究課題は、「ポピュリズム研究」と密接な相互関係がある。しかし同時に研究の射程に若干のズレが生じるので、関連する一次史料や二次文献の広範囲な収集が求められることになり、研究時間の配分が難しかった。 今後は、本研究課題の推進にさらに多くの時間を振り向けるとともに、今一度現実的に研究計画を練り直していく所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究として、第一に、1830年代末から40年代にかけてのアメリカ合衆国における指導的アボリショニストの分裂状況を具体的に把握するとともに、奴隷制反対運動の分裂が各地のコミュニティにどのような影響を及ぼしたのかについて探求していく。第二に、環大西洋アボリショニズムの観点から英米のアボリショニストがどのように緊密に連携し、いかなる状況下で緊張・対立状況に入っていったのかを、アメリカ革命・建国期以降南北戦争期までを広く射程に置き、英米のアボリショニズムの変容と提携を時系列的に考察してゆく計画である。 その際に、バプテストやメソジスト派の福音主義者の台頭に加え、チャールズ・フィニー牧師の完全主義や公共領域への女性の参加をめぐる論争が、アボリショニズムの浸透と反アボリショニスト暴動の出現に重要な役割を果たしたことを論証する。大西洋世界における思想の伝播と国内およびグローバルな社会運動の相互関係を丹念に考察することで本研究課題の中核的な議論に切り込んでいきたい。
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Causes of Carryover |
2021年度はワシントン大学の客員教授として滞米生活を送る機会を得た。本務校の在外研究規定もあり、研究課題に関するリサーチの旅費のみ使用可能とのことで宿泊費は適用外とされた。このように科研費の用途にかなりの制限を受けたため、実質的に研究課題に関連する学術書や文献、文具などの購入にしか科研費をあてることができなかった。また事前に計画していたボストンやニューヨークなど米国東海岸の主要なアーカイブでのリサーチもコロナ禍の長期化により特別資料所蔵室へのアクセスが制限されていたので計画通りに現地調査をすることができなかった。上記のような理由から前年度の研究費の一部を繰り越さざるを得なくなった。
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Remarks |
研究推進者が当該年度は在外研究中であったこともあり、研究成果の公開が若干遅れている状況である。しかし、すでに脱稿済みの2つの論文は、現在出版社で編集作業の途上にあり、2022年内に研究成果の一部として2冊の学術書の出版が予定されている。
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Research Products
(3 results)
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[Remarks] 「ジャクソン期アメリカ西部へのアボリショニズムの浸透と暴力」, 同志社大学 2021年7月24日
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[Remarks] "Astor's Global Emporium" History Colloquium, UW
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[Remarks] 北米ポピュリズム史研究会「19世紀メディカル・ポピュリズムの盛衰」, 2021年12月18日