2020 Fiscal Year Research-status Report
The minorities question in interwar Europe and the European Nationalities Congress
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19K01069
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Research Institution | Tokiwa Junior College |
Principal Investigator |
安井 教浩 常磐短期大学, キャリア教養学科, 教授 (10310517)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヨーロッパ民族会議 / 少数民族 / 戦間期ヨーロッパ / 多民族国家 / マイノリティ条約 / ユダヤ人 / 国際連盟 / 国境問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍の中ではあったが、本年度の成果として以下3点を挙げることが出来る。 (1)ヨーロッパ民族会議「第二期」(1927~1933年) の検討をすすめ、期待していた海外での資料調査は残念ながらコロナ禍のために実施できなかったが、「第二期」についての研究成果を世に問う下地だけは一応つくることが出来たと考えている。 (2)バルセロナのカタルーニャ学術院から出版されるFlocel Sabaté ed., Mediterranean Cities: Mobility and displacement of peopleに “A long road to Italy: The Odyssey of the Polish warriors during the Second World War” を執筆した。一見、本研究課題と直接関係のないテーマに映るかもしれないが、論文内容は、戦間期ポーランドにおける少数民族問題が第二次世界大戦期においてもその影響を色濃く残していたことを論証したものである。 (3)ポーランドのジェローナ・グラ大学が発行する学術誌『民族問題評論』の特集号に、”Konstanty Srokowski and national minorities in the Eastern Borderland of inter-war Poland” を執筆した。スロコフスキが1920年代にポーランド東部地域の少数民族問題を調査し発表した報告書は、戦間期を通じてポーランドの少数民族代表により信頼のおけるデータとして、著作や議会での演説においてしばしば言及されたが、この論文は、スロコフスキ報告書の内容を詳細に分析し、その後の少数民族問題の展開への影響を検討したものであるが、これは民族会議におけるポーランドの少数民族の動向とも深く関わるテーマである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初、本研究の2年目に予定していた課題は、ポーランド人グループおよびドイツの少数民族グループがヨーロッパ民族会議から脱退した時点から、ナチズムの台頭に伴ってドイツ人グループとユダヤ人グループの関係に齟齬が生じはじめ、やがてユダヤ人による会議からの離脱に至るまでの時期 (1927~1933年) についての考察を深めることであった。そして、その作業内容として予定されていたのは次の2つである。 ① 民族会議に参加していた少数民族の代表たちによる記録だけでなく、オブザーバーや一般傍聴者の立場で議論の推移を見守った人々(会議への参加を認められなかった少数民族代表、国際連盟の少数民族問題部会のメンバー、ヨーロッパ諸国の政治家や専門家、ジャーナリストなど) が残した報告や記事にも目配りして、「第二期」とも呼びうる上記の考察対象を出来うる限り多層的な検討を行うこと。 ② ①の作業を肉付けし、本研究にさらなる独創性を加えるために、民族会議関係者の史料を所蔵するドイツの連邦文書館、ジュネーヴの国連図書館、イェルサレムの中央シオニスト文書館等での調査を行うこと。 ①の作業については、順調な進捗を見、最終年度に向けて成果を発表する下地が整いつつあったが、コロナ禍の影響により②の調査を一切実施することが出来ず、これは、本研究にとって決定的な遅れを生じさせることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
いよいよ本研究課題の最終年度となる本年、これまでの遅れを取り戻して研究を推進するに際して懸念されるのは、やはりコロナ禍による研究活動の制約である。現状では海外での調査実施が不可能であることはもとより、ヨーロッパの多くの地域が依然としてロックダウンの状態に置かれているため、図書館等 (閉館が続いてところも多い) からの史料入手や書店からの書籍購入においても大きな支障が生じている。 研究対象も史料の入手先もヨーロッパである本研究課題にとっては先行きの見えない状況下ではあるが、その一方で、研究当初は予期していなかった史料の獲得 (現物での入手が叶ったドイツの少数民族グループの機関誌 Kuturwehr、ここにきてデジタル化され、ネット上での閲覧が可能になったドイツ・ポーランド人の雑誌Polak w Niemczech など) や研究成果の発見 (スペイン、スロヴェニア、ブルガリアの歴史家による民族会議についての論稿) などの朗報もある。 今後は、コロナ禍の動向を見ながら、本研究課題本来の予定作業である海外での史料調査実施の可否を見定めながらも、これまで入手出来た史料に基づいて本研究計画に可能な限り見合った成果を上げるべく、研究の進展に努めていく覚悟である。
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Causes of Carryover |
本研究課題の目的・方法、研究計画にも明記してあるように、本研究で必要とされる助成金の大きな部分は海外での資料調査およびその成果としての史料収集に充てられることになっている。初年度においてすでに次年度使用額が発生しているが、これは、ポーランドでの調査とバルセロナにおける国際学術会議での研究報告を行う機会を得たものの、前者は他大学の科研費により実施し、後者は旅費等が支給される招聘での出張であったことによる。そこで今年度は、初年度分の次年度使用額も含めた交付金に基づいて、本研究の核心を成すドイツの連邦文書館、ジュネーヴの国連図書館、イェルサレムの中央シオニスト文書館での海外調査を予定していた。しかし、コロナ禍の影響で多額の旅費を伴うはずであったこれらの調査を一切実施することが出来なかった。今年度も相当額の次年度使用額が発生したのは、そのためである。 本研究最終年度となる次年度は、コロナ禍の動向を見定めながら、本研究課題を果たすためには不可欠である上記の海外調査実施の可能性を探るとともに、その実施が不可能な場合に備えて、少しでもそれに代替しうる効果をもつ史料収集方法 (例えば、かつて研究に協力してくれた中央シオニスト文書館の元文書館員を通じて同館の史料入手の可能性を現在探っている。) を模索し、助成金の有意義な支出に努めてゆきたい。
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