2019 Fiscal Year Research-status Report
難民資格認定過程にみる20世紀末アメリカ合衆国における包摂と排除をめぐる攻防
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19K01070
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
村田 勝幸 北海道大学, 文学研究院, 教授 (70322774)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アメリカ史 / 難民 / 亡命 / 20世紀 / 法制度 / シティズンシップ / 人種主義 / 監獄国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度(平成31年度)は、本研究プロジェクトのキックオフとして、20世紀後半以降のアメリカ合衆国のおける難民政策の歴史的実態とそれに関する先行研究の概要を把握するという作業を行った。冷戦終結後から現在に至るまでの世界政治の多極化やグローバリゼーションの進展などを受けて、「資本主義」対「共産主義」という冷戦構図を自明の参照枠組みとしてアメリカの「難民問題」を説明してきたこれまでの在り方に見直しを迫る批判的な研究が多く出されていることが、先行研究の集中的な再検討を通じて明らかになった。また、監獄国家(carceral state)という語で近年称される、20世紀終盤以降アメリカ社会で顕著でなった大量収監の動きが、新自由主義政策による監獄の民営化のみならず、移民や難民の「犯罪者化」と長期拘留と不可分であることも理解することができ、20世紀末アメリカのハイチ人難民申請者に照準する本研究がアメリカ社会全般および広く世界の現在を知るうえでも「普遍性」をもちえることが確認できた。 しかしながら、もともと先行研究の整理および分析に続くものとして予定していた、ハイチ人難民資格申請者による初期の裁判闘争(1974年に提訴がなされたMarie Pierre v. USAおよびその前後の案件)に関する現地調査を実施することができず、一次史料を基にした分析を本年度中に行うことができなかった点は大きな反省材料である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
残念ながら一次史料を基にした実証的な分析は大幅に遅れている。これは、2019年度末から申請者が健康上の問題を抱えたことと、2020年2月末頃から本格化した新型コロナウィルスの流行によってアメリカでの現地調査が事実上不可能になったことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では本年度は、昨年度(2019年度)に実施することができなかった、上述した初期の裁判闘争に関する実証分析に加えて、1980年前後の二つの重要なハイチ人難民資格申請裁判の事例(Haitian Refugee Center v. Smith[1979]とHaitian Refugee Center v. Civiletti[1980])に関する実証分析を現地調査に基づいて行う予定である。しかしながら、中心的な現地調査はニューヨーク公共図書館ショーンバーグ・センター所蔵のアイラ・ゴロビン文書を対象としているため、ニューヨークにおける新型コロナウィルス流行の収束への見通しが立たない現時点において研究計画が流動的にならざるをえないというのが正直なところである。
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Causes of Carryover |
2019年度末に予定していた現地調査が不測の事態により実施不可能になったため、使用を予定していた金額の大半がそのまま繰り越しとなってしまった。2020年度には現地調査の回数を増やすか、調査期間を延ばすなどの手段を講じることにより、適切な支出を実現したい。ただし、調査を予定しているニューヨークで調査を行うことができるかどうかの見通しが不明であるため、場合によってはある程度の研究計画の変更を迫られる可能性がある。
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