2020 Fiscal Year Research-status Report
難民資格認定過程にみる20世紀末アメリカ合衆国における包摂と排除をめぐる攻防
Project/Area Number |
19K01070
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
村田 勝幸 北海道大学, 文学研究院, 教授 (70322774)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アメリカ史 / 難民 / 亡命 / 20世紀 / 刑事司法制度 / シティズンシップ / 人種主義 / 監獄国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和二年度(2020年度)は、四カ年にわたる本科研費プロジェクトの二年度めであった。年度末にコロナ渦に巻き込まれた初年度とは違い、今年度は1年を通して、このたびの世界的な惨禍の影響をもろに受けた格好である。アメリカ現地(ニューヨーク)での史料調査を軸としている本プロジェクトへの打撃は計り知れず、日本だけで行える作業も数少ないというのが正直なところである。 そのような状況下で、昨年度同様、先行研究の精読と批判的整理を深めることに徹するという方向にシフトチェンジした。具体的には、大量収監(mass incarceration)と移民・難民政策という、これまで別々に扱われる傾向があった研究領域を、新自由主義という観点を手がかりに架橋するという作業を行ってきた。そこにおいては、本研究プロジェクトが中心的な分析対象としているハイチ人難民(亡命)申請者という存在が、「特殊」ではなく「先駆的な」存在として位置づけた。 近年、移民や亡命申請者が法的な資格が定まらないまま長期拘留されるというケースが注目され問題化されているが、かれらと、ドラッグ関連犯罪で逮捕・収監された者(多くは非白人)に対する処遇を分ける境界線はきわめて曖昧である。「移民・難民の犯罪者化」とも呼ばれる事象の歴史的先例ともいえるのが、本プロジェクトで考察しているハイチ人亡命申請者をめぐる状況であるといえる。 このような考察の一部は、2022年3月にミネルヴァ書房から刊行予定の『「いま」を知るためのアメリカ史』の第1章「政治文化史」として発表されることになっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
残念ながら一次史料を基にした実証的な分析は大幅に遅れている。もちろんこれは、昨年度末からの新型コロナウィルスの流行によってアメリカでの現地調査が事実上不可能になったことによる。国内で実施可能な研究史の批判的整理や理論的な考察は可能な限り行っているが、現地調査が軸となった研究プロジェクトであるため計画が滞っているというのが正気なところである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はこれまで実施することができなかった実証分析を後ろ倒しして行う、という計画を立てざるをえない。具体的には、ハイチ人難民(亡命)申請者による初期の裁判闘争(1974年に提訴がなされたMarie Pierre v. USAおよびその前後の案件)に加えて、1980年前後の二つの重要なハイチ人難民(亡命)申請裁判の事例(Haitian Refugee Center v. Smith [1979]とHaitian Refugee Center v. Civiletti [1980])に関する実証分析を現地調査に基づいて行う予定である。しかしながら、中心的な現地調査はニューヨーク公共図書館ショーンバーグ・センター所蔵のアイラ・ゴロビン文書を対象としているため、ニューヨークにおける新型コロナウィルス流行の収束への見通しが立たない現時点においてこのプランに沿って作業を進めることができるか、現時点では未定である。
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Causes of Carryover |
2年度にわたり現地調査が実施不可能になったため、使用を予定していた金額の大半がそのまま繰り越しとなってしまった。2021年度には現地調査の回数を増やすか、調査(滞在)期間を予定よりも長期間にするなどの手段を講じることにより、適切な支出を実現したい。また、蓄積してきたデータを適切に蓄積・処理できる環境を構築するために、本年度中にパソコンを新たに購入するなど必要なインフラ整備を随時行いたいと考えている。
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