2022 Fiscal Year Research-status Report
難民資格認定過程にみる20世紀末アメリカ合衆国における包摂と排除をめぐる攻防
Project/Area Number |
19K01070
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
村田 勝幸 北海道大学, 文学研究院, 教授 (70322774)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アメリカ史 / 難民 / 亡命 / 20世紀 / 法制度 / シティズンシップ / 人種主義 / 監獄国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和四年度(2022年度)は当初、本科研費プロジェクトの最終年度となる予定であった。2021年度までの三年間と同様、今年度も新型コロナウィルス感染症のパンデミックが収束せず、すべての作業がアメリカ現地(ニューヨーク)での史資料調査の実施を前提としている本科学研究費プロジェクトへの影響は計り知れないものであった。それまでの三年間同様、研究の実施において最も肝心な一次資料を現地で渉猟することはかなわなかったため、主に既に入手済みの一次資料、オンラインや勤務先の図書館等で入手可能な史資料および文献を用いて実証は不充分ながらも本研究プロジェクトが関連研究においてもつ意義を再確認するとともに、今後行うべき課題を再検討した。 そうして状況下にありながら、幸いにも研究成果をいくつか発表することができた。具体的には、2022年9月刊行の藤永康政・松原宏之編『「いま」を考えるアメリカ史』(ミネルヴァ書房)の第1章で「収監と国境警備のアメリカー現代国家論・政治経済史」という論考を発表した。そこでは、移民法に違反した移民や、法的資格が定まらないまま長期勾留された難民/亡命申請者と、ドラッグ(麻薬)関連犯罪で逮捕・収監された者とが、新自由主義体制下で密接に結びついていることを明らかにした。また、2022年9月18日に行われた、日本アメリカ史学会第19回年次大会・シンポジウムC「アメリカの対テロ戦争とは何だったのか?」で報告者として登壇し、「『ポスト9/11』アメリカの移民・難民管理政策の歴史的位置」というタイトルで招聘報告を行った。同報告では、1970年代以降のハイチ人難民/亡命申請者に対する政策がアメリカの移民・難民政策の歴史においていかなる意味をもったのか、2001年9月11日の「同時多発テロ」以後とどのように連続あるいは断絶しているか、という点に注目した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
残念ながらこれまでと同様、新型コロナウィルスによるパンデミックが沈静化する気配をみせず、アメリカでの現地調査を実施することができなかったため、一次資料を基にした実証的な分析はほとんど進んでいない。国内で実施可能な研究史の批判的整理や理論的な考察は可能な限りおこなってきたが、本研究プロジェクトはあくまで現地調査が軸であるため計画が大きく滞っていることは否定できない。当初の予定を変更して研究期間を一年延長したのはそうした理由からである。ただそうしたなかでも、年度内に学術図書の分担執筆一本と学会報告一回を研究成果報告として実施できたことは幸いであったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年4月現在、新型コロナウィルスに対する取扱が第五類に変更されたこともあり、現時点では今年度中に現地(アメリカ)調査を実施することができる見通しである。そこで、これまで予定していながら滞っていた実証分析作業に順次取り掛かるつもりである。具体的には、ハイチ人難民(亡命)申請者による初期の裁判闘争(1974年に提訴がなされたMarie Pierre v. USAおよびその前後の案件)に加えて、1980年前後の二つの重要なハイチ人難民(亡命)申請裁判の事例(Haitian Refugee Center v. Smith [1979]とHaitian Refugee Center v. Civiletti [1980])に関する実証分析を現地調査に基づいて行いたい。加えて、1850人以上のハイチ人を全米の14の施設に強制的に収容しようという動きを阻止した1982年の判例(Lucie Louis v. Alan C. Nelson, Commissioner of the Immigration and Naturalization Service)、連邦政府がハイチ人拘留者をプエルトリコの軍事施設へ強制移送しようとしたことに挑戦した1990年の判例(Haitian Refugee Center v. James Carter)についても着手したい。 ただし、一年度だけの現地調査で当初掲げた目標・課題のうちどれくらい達成できるかは不明であるため、年度の終盤に今後の進め方を再度検討したいと考えている。
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Causes of Carryover |
四年度にわたり現地調査が実施不可能になったため、史料調査での支出を予定していた額の大半を使用することができなかった。期間延長の認可を受けた2023年度には、(かなり実現性や可能性が低いと思われるが、)現地調査の回数を増やすか、調査(滞在)期間を当初の予定よりも長期間にするなどの手段を講じることにより、適切な支出を実現するみちも探りたい。
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