2021 Fiscal Year Research-status Report
亡命オーストリア社会民主主義者の戦後構想と新自由主義の起源
Project/Area Number |
19K01074
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
小澤 弘明 千葉大学, 大学院国際学術研究院, 教授 (20211823)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 新自由主義 / 社会国家 / 亡命 / 戦後構想 / オーストリア |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年度に引き続き新自由主義の起源及び社会主義国家や国際的な社会民主主義の運動と新自由主義との関係についての基本論文を収集し、その分析を行った。起源に関わるものとしては1947年のモン・ペルラン協会の創立鍵についての議事録が出版されたため、その分析を行った。また、英米の起源については、英国のニュータウンを素材とした社会民主主義から新自由主義への転形についての研究書、及びニュー・ヨーク市を素材とした革新自治体政治の新自由主義への転換過程についての研究書を分析した。また、ドイツやオランダの経験と新自由主義の起源に関わる研究書や研究論文によって、英米に偏した起源の議論を拡張する視点を強化した。また、チリにおける社会民主主義運動や労働組合と新自由主義体制との関係についての研究から、新自由主義の「左派的起源」についての観点をグローバル・サウスに拡大した。 歴史的起源の問題では、2019年の社会民主主義的な「赤いウィーン」の成立百周年を機に2020年にかけて出版された、大部の史料集(ドイツ語版と英語版)及び博物館展示の図録等を入手し、ハイエク、ミーゼス、ポパーらの思想・運動と社会民主主義との対抗と連続に関する視点を強化した。 また、自由主義と新自由主義の関係を歴史的に検討するために、2010年代以降に出版された自由主義関連の研究書目録の作成を開始し、18世紀以降の古典的自由主義及び19世紀以降の社会的自由主義と20世紀以降の新自由主義との関連を歴史的に把握するための視点を得た。特に現代世界におけるポピュリズム・反リベラリズムの展開を思想と運動の両面から検討しようとする研究動向は顕著である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の進捗のためには、刊行文献だけでなく未刊行の文書館史料を含めて分析を行うことが必須の課題である。しかし、新型コロナウイルスの流行のため、海外文書館・図書館の調査は今年度も実現せず、史資料の調査のために、本来、渡航予定であった、イギリス、オランダ、スウェーデン、オーストリア、アメリカ合衆国について、海外における研究をいっさい遂行することができなかった。 また、海外調査の代替の一部として、新自由主義を推進したモン・ペルラン協会と日本との関係を分析すべく、国立国会図書館の木内信胤関係文書(世界経済調査会関連)を利用するとともに、基本的な二次文献の収集と分析を実施した。また、世界経済調査会関連の雑誌を利用した。経済同友会の新自由主義推進委員会については、周年史や刊行物の分析をほぼ終了した。 上記のように一次史料の入手については全体として困難を抱えているものの、二次文献については電子テキストを含めて継続的かつ着実に収集した上で分析を進めている。一次史料についても、部分的に史料集の形式による刊行史料や電子化された一次史料を随時入手することができた。特にグローバル・サウスからの視点や、新自由主義に先駆ける古典的自由主義及び社会的自由主義の抱える問題についての理解を深めることが出来た点は重要であり、分析対象を地域的にも時系列の面でも拡大することができたことは収穫であった。そのため、初年度、二年目に続き、三年目の研究の進捗状況全体としては、「やや遅れている」という評価に至った。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度の研究を推進するためには、やはり海外文書館・図書館の利用が必須であるため、海外文書館・図書館が利用可能であるとの条件で、積極的に利用を進めたい。また、これらの開館には時間差があるため、研究計画の当初に予定していた順序にかかわらず、国・地域・機関ごとに利用可能となる条件を見据えながら柔軟に研究を遂行したい。 最終年度においても、上述のような条件が整わない場合には、次善の策として文献の複写サービスやデータ化サービスを積極的に利用することによって、一次史料の入手につとめることとしたい。これも、ロンドン、アムステルダム、ストックホルム、ウィーン、スタンフォードにおける図書館・文書館の開館状況を見据えながら、柔軟に利用の順序を考慮したい。また、一次文献については、比較的入手が容易である雑誌・同時代文献等、同時代の刊行物を優先的に収集・分析することとする。 二次文献については、順調に収集が進んでいるが、今後はヨーロッパの経験だけでなく、中国・ベトナムなどアジアの社会主義圏の経済改革と新自由主義との関連を歴史的に把握すること、ラテンアメリカ以外のグローバル・サウス、特にアフリカにおける事例についても視野を広げて収集・分析を試み、比較の軸の多元化を図りたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行の結果、海外文書館・図書館における調査・研究が不可能になったため、旅費(海外旅費)のすべてを執行することができなかった。また、その調査・研究によって生じる予定であった未刊行文書の整理に要する人件費・謝金についても部分的にしか執行することができなかった。 他方、二次文献の収集については順調に推移したため、物品費はほぼ計画通りに使用することができた。 次年度は執行できなかった旅費について対象地域への渡航が可能となることを前提として、計画的な使用を心がけたい。また、条件によっては短期渡航を複数回とするか長期渡航によって効率化を図るかについて、渡航対象地域の感染状況と研究環境の整備の状況を見据えながら、柔軟に対応することとする。また、海外旅費の執行が順調に進めばその分史資料の整理のための謝金等の執行が進むと考えられるため、次年度の予算執行を全体として確実に進めることが可能となる予定である。史資料の整理のための謝金等の執行は、研究の進展に合わせて進めたい。 なお、未刊行の文書館史料等の収集が状況により不可能となる場合には、雑誌と同時代文献の複写・データ化に注力するため、旅費ではなく相対的に物品費に振り替えを行うこともありうる。この研究計画の一時的変更は、状況の変動を検討しながら実行することとする。
|
Research Products
(5 results)