2019 Fiscal Year Research-status Report
東ドイツ・ロストック市の住宅事情から見る「公共空間」
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19K01079
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
河合 信晴 広島大学, 総合科学研究科, 講師 (20720428)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 東ドイツ / 住宅政策 / 都市開発 / 公共圏 / ロストック / 請願 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドイツ政府ならびに社会主義統一党の住宅政策の内容を、1970年代から80年代にかけて検討した。それにより、本研究対象であるロストック市の住宅整備実情を探るための大枠を理解した。東ドイツではこの時期、新興住宅団地建設が優先され、旧市街地にある戦前からの住宅の修繕はほとんど省みられなかった。その結果、住宅供給量そのものは増えつつも、トイレや集中暖房といった住宅内設備状況の改善は追いついていなかった。従来の研究では、この点について、単に数量的なデータに基づいて、西ドイツと比較して遅れているという評価がなされてきた。しかし、実態は新興団地内の部屋と旧市街のアパートとの質の差が極端に違うことに問題あることが判明した。本年はこの点で新しい研究上の発見があった。 2019年度はドイツへの訪問を二度予定した。そのうち、夏には1か月弱、ロストック市に滞在し、ロストック市公文書館、シュタージ公文書館、グライフスバルトにある州立公文書館で一次史料調査をおこなった。この間主に目録を作成し、いくつかの一次史料については実際に確認をしたうえで、コピーないしは写真媒体で日本に持ち帰ることができた。この日本に持ち帰った一次史料については、現在精査中である。 また、ロストック大学歴史学研究所のF.ムロトゼック講師にも面会し、インタビュー調査実施の方向性について講義を受けた。同研究所のM.クルーガー名誉教授からも、ロストック市における住宅政策に関する論文や近年出版された新しい研究成果についての紹介を受けた。 研究実施計画にも書いた、インタビューについてパイロット的なものとして、当時、新興住宅団地と旧市街のアパート双方に暮らしたことのある人物から、詳しい聞き取り調査ができた。この成果が、新住宅と旧住宅の設備状況の質的な違いがあるという発見に大きく寄与している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目に予定した研究内容について、ほぼ順調に進めることができた。2019年夏の史料調査旅行においては、ロストック市立公文書館の本研究に関して読むべき史料を確定した。またグライフスバルトの州立公文書館については、史料状況のついても大枠での確認は終了した。シュタージ文書館の史料については、いくつかロストック以外の町について、秘密警察が住宅問題をどのように把握していたのか、またその民意はどのようなものだったのかについて史料を収集することができた。また内容的には、市の公文書館や州の公文書館の史料内容とそれほど変わるわけではないことがわかった。 本年の主たる研究成果である東ドイツ全般の住宅事情の解明については、最終的に本研究を発表する予定である共著の執筆者と、二度にわたりテレビ会議を実施し実施状況について進み具合について客観的な評価を受けた。 また、これまでの二次文献の収集と分析については、研究対象地域に絞った文献をいくつか検討するところまで進めることができた。ただ、ロストックでの研究調査の際、大学図書館で必要な文献を確認したところ、直接、住宅問題や都市計画に関わるものだけでなく、建築史に関わるものが多数存在することがわかった。これらの文献についても本研究に活かす必要性がでてきた。住宅問題や都市計画という視点から、東ドイツにおける独自の「公共性」のあり方を検討するという当初示した目的については、広く都市行政の在り方、特に住民参加の仕組みを含めて検討する必要がある。そのための一次史料の発掘に今後の調査では気を付けねばならないことを理解した。 1年間の研究を通して判明した問題は、グライフスバルトの州立公文書館について、利用時間が限られることである。この点については、一次史料の写真撮影が認められていることから、今のところ関連する研究計画そのものを大きく見直す必要はないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年は、昨年、収集した一次史料の分析を具体的に進めることを第一に実施したい。また、州立公文書館の目録について、現地で撮影した目録カードを元に、これから読み込む史料を確定していく。そのうえで、来年までには公開の研究会において、これまでの研究の中間報告を実施する予定である。 ただ、本年に入って発生した新型コロナウイルスの世界的な拡散により、現地ドイツでの調査研究が困難になることが予想される。特に、当初予定していたインタビュー調査は、紙媒体を使用することもあり、感染を防ぐために現状では大々的に実施することは不可能と言わざるをえない。この点については来年以降、その機会を探りつつも不可能になった場合は、特定の人物への聞き取り調査という昨年度実施した方法をもって代替策とする。 そもそも今年夏にはドイツに渡航することは非常に困難であると思われる。そこで、本年度に予定していたドイツでの調査について、来年度以降に繰り下げる必要がある。そこで本年度は、手持ちの一次史料の分析が終了した後は、既存の二次文献の再確認調査を進めることとする。特に昨年度の研究で問題となった、建築史に関する研究文献、東ドイツにおける都市計画に関する市行政のありかたと市民参加に関する文献を調査することを重点課題としたい。この課題を検討するための二次文献は主要なものはそろえることができた。さらに文献資料の収集の充実を図り、先行研究についての分析を進めていく。 この間、グライフスバルトの州立文書館、ロストック市立文書館の担当者、ならびに、ドイツで協力をお願いしている研究者とはメールやテレビ会議を通じて、現地の状況を確認しつつ、本研究に対するアドバイスを求める。
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Causes of Carryover |
購入予定図書についての絶対に必要な研究文献とそれ以外の物との区別をして購入を選定する作業が予算執行期限に間に合わなかった。それゆえ、本年度の予算において消化することができなかった。これについては次年度分と含めて消化できる予定である。
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