2021 Fiscal Year Research-status Report
東ドイツ・ロストック市の住宅事情から見る「公共空間」
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19K01079
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
河合 信晴 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (20720428)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 東ドイツ / 住宅政策 / 都市開発 / 公共圏 / ロストック / 請願 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は先行研究の整理と二次文献の整理、そこから使用する史料の確認を終えるとともに、研究開始1年目で行ったドイツ現地の文書館史料の分析を行った。本研究の成果を発表する予定の書籍刊行に向けて、その共同執筆者に報告をするだけでなく、本研究の成果について、10月に行われた『現代史研究会』の小シンポジウムにおいて進展状況についての報告を実施した。そこでの批判と成果を踏まえて、これまで最終成果になる論文の序論ならびに住宅政策に関係する第1章の途中まで執筆している。また、文書館調査が再開可能になった際にはすぐに現地での史料収集に入れるように、史料目録の作成、整理を実施した。 具体的には、東ドイツにおける70年代以降の住宅政策の概要、ロストックでの政策の遂行実態について手元にある一次並びに二次史料で確認し、この町でも新規の住宅建設が計画通りに進みながらも、既存住宅の改修、近代化が進まなかったという東ドイツの住宅問題が抱える課題から逃れられなかったことを明らかにした。また、70年以降の東ドイツにおいて住宅政策が社会政策のなかで、なぜ最も重視されていたのかについても理解できた。それは、社会主義思想の伝統から重要として意識されていただけでなく、西ドイツに対する優位性を示すという冷戦下の東西世界の競合の一環であったためだった。 共同研究では、1970年代にドイツ社会では人びとの社会における立場が多様化したことで、新しい貧困が発見されたり、一人一人の個性にあった福祉への対応が国家に求められる事態になり、社会政策の見直しにつながった点を共通理解にしているが、東ドイツの住宅問題にもこの見通しが適応可能であることが史料分析から成果として得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで3年間の研究期間のうち、2021年度も、2020年につづき現地での史料調査はコロナウイルスのまん延に伴う現地の文書館の閉鎖や開館の縮小により断念せざるを得ない状況になった。また、インタビューを予定していたものの、これは不特定多数の人との接触が避けられず、現地への渡航が不可能になったことからも研究期間中での実施を断念せざるを得ない状況となっている。 ただ、この状況下においても本研究の研究時間は確保できており、二次文献の渉猟およびその分析はかなり進展した。またこの間も協力を仰いでいる現地の研究者との間では、メールのやり取りとオンラインを通じて、意思疎通を図っており助言をうけることができている。その結果、対外的には内部での研究報告だけでなく、予定していた学会報告を行うことで、研究の見通しは明確になった。実際には、1年目に集めた1次史料並びに、公刊史料、それと二次文献からの引用によって本研究の成果となる研究論文の執筆を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
東ドイツの住宅政策ならびに住民の意識や行動について、現在分析を進めている。研究計画ではロストックに着目することとしたが、史料調査が不可能ななかでロストックの事例だけでは十分な立証ができない事態となった。しかしながら、東ドイツ全体の住宅問題ついて、先行研究を確認したところライプツィヒの事例研究から住民の意識が読み取れるものが見つかった。これらの事例を本研究に組み込むことで、一つの都市についての実態研究に代わって、東ドイツ内での都市の比較になる形の最終論文を作成していきたい。 また、東欧社会主義圏についての研究も参考になることから、積極的に比較研究としての位置づけを提示したいと考えている。すでにチェコの住宅政策での違いについて、政策そのものは東ドイツと同じといえども、目標理念において分断国家であった東ドイツのほうが社会主義イデオロギーを前面にだしていることが分かった。この点については、本年4月末に予定されている東欧史研究会で議論を深める予定でいる。 その反面、インタビュー調査については十分な準備ができないことから、本研究では断念せざるを得ない。最終論文についての草稿を2022年度中に作る予定でいるものの、これまで不可能であった現地ドイツへの渡航が可能であれば、文書館調査を再開して、その分析を活かしたい。それもあり現状の進み具合から見て、最低1年間研究期間を延長することを予定している。
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Causes of Carryover |
物品費の購入については、購入予定していた書籍について他大からの貸し出しによって購入する必要がなかったものがあり、くわえて、ドイツ出張の際に必要と思われていたカメラ等機材が出張に行けない状況が続いていることから、使用していない状況にある。また、昨年度と同様、予定していたドイツへの出張や国内出張がコロナ問題の継続によって不可能な状態にあったためにそのまま残っている。また、人件費についてもインタビュー調査が不可能な状況にあるため残金となっている。 今年度は夏、少なくとも来春には渡独できることを見込んでおり、通常よりも出張する予定である。そのために必要な機材の購入ならびに旅費を計上する予定でいる。また、国内出張も可能になりつつあることから、残金は解消できると思われる。計上している人件費については、史料収集後の史料整理を委託することと、可能であれば外国人研究者を招聘することで使用する予定でいる。
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Research Products
(1 results)