2019 Fiscal Year Research-status Report
中世初期ポー河デルタ近隣における集落間の社会経済的関係の解明
Project/Area Number |
19K01081
|
Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
城戸 照子 大分大学, 経済学部, 教授 (10212169)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | コマッキオ / ラヴェンナ / ポンポーザ修道院 / 製塩 / 塩商業 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の2019年度には以下2点の研究実績を得た。 ① 来日したイタリア人研究者(モニカ・バルダッサッリ博士)を招聘し、関西中世史研究会との共同開催にて、9月8日にレクチャー・ミーティングを主催した。コマッキオの発掘成果を含む、考古学と文献史学との橋渡しとなる研究報告を、発掘遺構・遺物のスライド視聴を交えて聴講できた〔2019年9月8日・於京都女子大学〕。 博士の報告には、コマッキオに加えてヴェネツィア潟の小集落イェーゾロでのローマ期の定住地の発掘成果と歴史学上の意義についても併せて言及されており、ローマ末期から中世初期の5世紀から8世紀の間の、「ポー河デルタ地域」の在地の機能が明らかになる。ヴェネツィアが唯一のデルタ地帯の集落なのではなく、複数集落が商業と製塩業とで相互に競合しつつ連関していたことが、考古学成果から説明された。
② 2月にコマッキオとポンポーザ修道院(エミーリャ・ロマーニャ州)を訪ね、コマッキオの考古学博物館とポンポーザ修道院および付属の博物館を巡見した(2月14日~21日)。コマッキオは現在でもコマッキオ潟Valle di Comacchioと呼ばれる広域の干潟を内陸部に抱え込んでおり、アドリア海沿岸との近接も看取することができた。また、考古博物館(Museo Delta antico)では、リウトプランド王の8世紀初めの文書史料に基づく、ポー河河川航行の展示、当時のアンフォラ(素焼きの瓶で、オリーブ油やブドウ酒など液体を入れる)などの展示が参考になった。またコマッキオの歴史的産業として、製塩業にかかわる地域研究の論文集を入手することができた。 ポンポーザ修道院とその付属博物館では、初期の成立期からラヴェンナ司教区、都市ラヴェンナとの関係が深かったことが理解できた(建築資材にラヴェンナ司教区から運ばれた石材などの再利用が分かる)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は、2020年2月中旬の出張期間が短くカーニバル最終日の土日を挟んだため、当初の目的としていた文献検索が現地ではあまり実施できなかった。幸い、この時期までCOVID19の感染件数は限定的で、影響は非常に小さかった。現地で確認されたのだが、休日期間の交通機関の利用(鉄道)が減便のため利用しにくく、ラヴェンナ及びラヴェンナ南のチェルヴィア(製塩地の集落。近代にも製塩業が盛んで博物館がある)への移動が日曜日にできなかった。また想定はしていたが、在地の移動に不便があり、旅程を限定する必要があった。 コマッキオからポンポーザ修道院の一帯は第二次世界大戦後の大規模干拓で平地になったのだが、それ以前は干潟の島々で、したがって鉄道がとおっていない。在地集落間の移動に関し、幹線鉄路から分岐した先の小集落間の交通網は、バス・自動車のみで非常に不便だった。カーニバル期間中でバスもタクシーも利用できず、移動に困難を極めた。夏に、アドリア海沿岸航行が可能な時期なら海路も可能だったが、今回の出張ではこのサービスも入手不可だった。 この、現在社会でのアクセスの限界から逆に、中世の在地間交流を考える際に、アドリア海沿岸航路に加え、干潟を舟で航行することの重要性がうかがわれた。また、領域領主としては、ポンポーザ修道院以外に、拠点都市フェラーラの封建領主エステ家、ラヴェンナ大司教、といった聖俗領主の移動を制御する政治権力の重要性を改めて実感した。 また、出張時にフェラーラの国立文書館が部分開館しかしておらず、関連する文書の伝来状況を確認することができなかったのは残念だった。すでに収集してあった研究論文等の閲読も遅れがちだったが、帰国後インターネット古書店で、地域史に関する古書を入手するできた。そのレファランスは、ポンポーザ修道院ガイドに記載された研究文献目録から得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、COVID19の世界的な感染の影響のため、イタリアでの史料収集や現地の博物館・文書館の巡見、イタリアからの研究者招聘による研究集会の開催などは制限せざるを得ない。従って、以下の方法で研究推進を考える。 ① 先行研究文献を閲読し、特に「製塩業」に絞った研究動向をまとめる。その際、在地での小さな製塩業、近代以降に有名になるチェルヴィアの製塩業など、中世初期にとどまらない大きな地域の伝統を確認し、中世初期の製塩活動を位置づける。② ヴェネツィアの初期集落研究から、コマッキオなどの在地集落との競合と関連を見直す。 ③ ラヴェンナ大司教の製塩と塩商業に対する関与を、モンタナーリらによる食文化史の研究蓄積から、その供給側の情報を整理し、コマッキオの他に、チェルヴィア、ヴェネツィア近郊のキオッジャといった製塩集落との関係を明らかにする。 ④ 中世盛期に重要なアクターとなるポンポーザ修道院の位置づけを、ラヴェンナとの関係で見直す。 ⑤ ポンポーザ修道院は、中世盛期に名のある修道院として栄えたが、継続的発展には限界があった。その理由を在地の発展性と関連付けて考察する。
|