2020 Fiscal Year Research-status Report
中世初期ポー河デルタ近隣における集落間の社会経済的関係の解明
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19K01081
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
城戸 照子 大分大学, 経済学部, 教授 (10212169)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | コマッキオ / 製塩 / ポンポーザ修道院 / ラヴェンナ大司教 / ポー川デルタ地帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究成果については、直接の成果報告として形となる業績を提出することができなかった。イタリア中近世研究会(オンライン研究会)でも、初期中世の貨幣使用を軸に、北イタリアの経済活動を概観する報告をしたが、直接、製塩やコマッキオ、ポンポーザ修道院に関する報告はできなかった〔2020年9月10-11日。「8-10世紀北イタリアの貨幣使用を考える予備的考察」を報告〕。 本申請課題は、イタリア半島の東側のアドリア海沿岸部の地域を検討対象としている。広く一般に地中海世界と呼ばれる海域で、東側のアドリア海沿岸の対になるのは、西側のティレニア海沿岸である。現フランスとの国境地帯を内包し、南フランスとイベリア半島との影響が、東地中海地域よりも格段に強い地域である。 中世盛期のイベリア半島で、西地中海に面した商業拠点カタルーニャ地方を擁するアラゴン連合王国の領土的発展と経済成長についての足立孝氏の研究書『辺境の生成―征服=入植運動・封建制・商業』(名古屋大学出版会、2019年)を読む機会があり、その書評を書くことができた。それをきっかけにアラゴン連合王国のイタリア半島への進出を通じて、西地中海世界の躍進と地理的海域的連続および、本研究が対象とする東地中海世界との対比の目を養うことができた。 〔『史學雑誌』書評、2020年12月号、第129編第12号。『九州歴史科学』「特集 足立孝著『辺境の生成ー征服=入植運動・封建制・商業ー』をめぐって アラゴン連合王国ペドロ三世(在位1276~85。シチーリア王位1282~5)にとって、シチーリア島は「辺境」だったか」2020年12月)〕。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年2月2月にイタリア出張(コマッキオ、フェラーラ、ヴェネツィア)から帰国したが、そのままCOVID19感染防止対策のため、本務校では年度末に2週間の自宅待機(就業禁止)となった。幸い感染はしていなかったが、4月からのオンライン授業の準備とテレワークへの適応に時間がかかり、国内図書館やイタリア各地の文書館の閉館も影響して、十分は研究時間を確保することができなかった。 オンラインでの研究会や学会への出席はなんとか確保したが、新しい研究動向をめぐる議論などが自由にできず、出張先で購入した書籍の購読もあまり進展しなかった。 もちろん、2020年2月の出張で不十分だった、アドリア海沿岸の製塩地各地(チェルヴィア、キオッジャ)の再訪と博物館の巡検、ラヴェンナでの文書閲覧といった現地を訪れての研究活動は、2020年度にはあきらめざるを得なかった。ある時期までは海外出張の再開の可能性も視野にいれていたため、それも2020年度の研究の取り掛かりが遅くなり、進捗が遅れた理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
初期中世の7世紀から8世紀のイタリア半島北部では、西方からアルプスを越えて入ってくるフランキア(フランス)からの勢力と、東方には再征服を6世紀に成功させたビザンツ帝国および東側から侵入したゲルマン諸部族(オストラゴート・ランゴバルト)の勢力がある。両者を比較し、初期中世の北イタリアには、政治史的に東西の断裂があることを再確認した。コマッキオとポー川デルタ地帯の都市、ポンポーザ修道院は、東側のアドリア海沿岸部の政治圏に属する。この沿岸地域を南下すると、アラブ勢力との対立の前線である。 申請者はカロリング期の、ポー川を遡上して王都パヴィーアに至る西向き(フランキア向き)の河川交通に注目したが、逆向きの、ポー川デルタ地帯からアドリア海に出る東進の重要性を確認した。アドリア海域の政治的多様性とヴェネツィアを要とする経済構造の複雑さは、広く地中海世界と呼ぶ中でも、再度検討する必要がある。 それらを踏まえ、今後2021年度中はなおしばらくイタリア出張の可能性は低いと考え、国内での研究遂行を考える。①2020年12月に発注し21年4月に入手したイタリア初期中世史の国際学術会議(Congresso internazionale di studio sull'alto medioevo)の年次報告集(2019年の会議報告・2020年刊まで22巻)に依拠して、イタリア半島東側(アドリア海沿岸)の初期中世の政治的枠組みを再考する、② ビザンツ帝国の総督領だったラヴェンナの政治構造と、大司教の権力について、製塩ではなく「塩商業」との関係で取り上げる、③ コディゴーロ(コムーネ)に所在するポンポーザ修道院の最盛期は紀元1000年以降だが、初期中世の歴史はラヴェンナ大司教管区との関係が深いため、両者の政治的関係について考える。総じて、研究潮流を概観する研究史解明を優先課題として執筆に取り組む。
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Causes of Carryover |
2020年度の使用については、費目変更をして、物品費に700000円をあて、国際研究会議の年次報告書22巻をシリーズで、古書も含め、Fondazione Centro Italiano di Studi sull'Alto Medioevoから、代理店の古書店を通じて一括購入した。発注から納品までに3か月かかり、1951年刊行開始時から2001年刊行のものまでは、アンカット製本版(冊子の小口~背以外の本の側面三方~を断裁しない製法)だったため、代理店からページ数チェックの希望が入り、納品が遅れて4月納品となった。そのため、3月末の予算執行予定が、納品時期がずれ込んだため、次年度使用額となった。この古書購入にあてる次年度使用額については、4月納入時期にすでに使用される分が441,844円である。残りは令和3年度予算とあわせ物品費で同じく図書購入等に充てる使用計画である。
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