2021 Fiscal Year Research-status Report
中世初期ポー河デルタ近隣における集落間の社会経済的関係の解明
Project/Area Number |
19K01081
|
Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
城戸 照子 大分大学, 経済学部, 教授 (10212169)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | コマッキオ / 製塩 / うなぎ / アドリア海沿岸 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度には、前年度と同様、イタリアでの情報収集や文書館での資料・文献閲読、製塩業跡地および博物館等の巡見といった研究活動に制約があった。そこで、①日本での書籍・研究文献(電子データによる論文検索を含む)の収集と閲読、②国内での学会・研究会での報告、③いままでの研究成果のとりまとめを行った。 ① 中世初期イタリア史の研究史と研究動向を分析する基本文献として、スポレートの中世初期研究イタリアセンターが刊行中の《Atti dei Congressi》『国際学会報告論文集』(AC)のシリーズを大学図書館に収蔵の上、閲読に取りかかった。政治史の枠組みで、カロリング国家やコムーネ及び都市共和国ではない、ビザンツ-ランゴバルド-アラブの中世イタリア社会と支配構造が取り上げられる。当該研究ではビザンツ帝国の影響下にあったアドリア海沿岸地域を対象とするため、これら地域の重要性と学界動向における位置づけを、特にラヴェンナの政治的枠組みで再確認できた。 ② 2022(令和3)年2月5日に西洋中世学会主催の若手セミナーのオンライン研究会「頭と舌で味わう中世の食文化:レクチャー編」で、トルタと中世のウナギの食文化とを紹介した。コマッキオはレノ川河口の汽水域にありウナギで知られる。製塩と塩商業では、ポー川流域のチーズ製造と魚の塩蔵保存に塩が可欠だった点を示した〔第4報告「中世イタリア半島の食文化_トルタが食べたい...」〕。 ③ 『歴史的世界』(刀水書房。2021年12月刊行)に「8~10世紀イタリア半島北部・中部の貨幣と造幣権力の多様性」を発表した。貨幣製造のない中世初期の交易拠点コマッキオの逆説的な重要性を紹介した。また、『イタリア史のフロンティア』(昭和堂。2022年6月刊行予定)にコマッキオとヴェネツィアを対比させた「小都市の持続可能性-ポー河デルタ地帯のコマッキオ集落」を発表予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当該研究では、2000年代以降活況を呈している中世考古学の発掘成果とその報告集も重要な史資料としている。現在の景観保護の写真データ等により、当該研究が対象としている地域の、自然環境の特徴は知ることができたが、現地での巡見ができない。特に製塩業については、現地の博物館や製塩跡地での巡見を予定していたが、海外渡航の予定が立てにくかったため、期待していた情報収集ができていない。 また、中世初期の都市ラヴェンナの統治機構やビザンツ帝国との政治関係については、ACの2005年刊行の『帝国首都からビザンツ総督領首都へ』《Ravenna da capiale imperiale a capitale Esarcale》の閲読を中心に進めてきたが、この動向研究のみでは、限界があることが分かってきた。当然ではあるが、政治史の枠組でアプローチする場合、ラヴェンナ大司教の経済活動についてはまず造幣に始まるが、その他製塩などに関する研究はこのシリーズでは関与されることが少ない。研究動向上の重要性の再確認はできたが、期待した社会経済史的アプローチとしては、なお別の研究動向をリサーチする必要があることが確認された。こちらの作業がまだ進んでいない。 ポンポーザ修道院については、中世初期の史料は少なくやはり11世紀以降の修道院としての隆盛の記録から遡及する必要がある。現地の博物館の発掘史料から、建築資材をラヴェンナから運んで再利用していることだけは分かっているが、それ以降の恒常的な関係を検証する研究動向を、なお検索しているところである。中世盛期には図書館が併設され重要な知の拠点であり周辺からの巡礼も多かったという修道院の機能が、フェラーラの支配下に入った時点以降、たどりにくいことも分かった。
|
Strategy for Future Research Activity |
① ACシリーズの国際研究会(1960年代以降)での報告を材料に、イタリアにおける研究動向を分析する。カロリング帝国の一部としてのイタリア半島以外に、多様な政治権力が行き交うイタリアの政治構造について、研究が進展している動向を、特にビザンツ帝国領のラヴェンナとアドリア海沿岸での政治的経済的位置づけについて、提示したい。この学会動向追跡については、長いタイムスパンだと紹介と検討が複雑で難しいことが分かったので、テーマごとに取り上げて短いタイムスパンで、早めに発表する方向に軌道修正する。 ② 手工業については、もともと容器としてのアンフォラ陶器を具体的なテーマに取り上げる予定だった。しかしコマッキオでのガラス・カメオの製造から、テッセラと呼ばれるモザイクの製造パーツであるガラス小片についての手工業して、アンフォラのほかにガラスのテッセラについても注目する。 ③ 製塩業と塩商業について、中世初期にヴェネツィア以外にどれほど製塩業が展開されえていたか、キオッジャ(ヴェネツィア近隣)とチェルヴィア(ラヴェンナ近隣)と比較しながら、コマッキオの地域における製塩業について検討する。コマッキオと北部の関係ならキオッジャとの関係の検討、南部との関係ならチェルヴィアとの関係の解明が優先される。
|
Causes of Carryover |
イタリア現地での博物館等の巡見・文書史料館での史料検索と閲読を目的とした出張が、COVID19感染拡大防止政策による渡航禁止等の期間があったために、実施困難だったため。また同様の理由から、入国先のイタリア政府の政策にも影響された。 来年度の使用計画については、COVID19の感染拡大防止対策の試行タイミングにもよるが、本年度にはイタリア現地でのチェルヴィアの製塩博物館の巡見、フェラーラ文書館での史料検索、ラヴェンナおよびポー川デルタ自然公園等の巡見を目的としたイタリア出張を第一に考えている。ただし、出張の実現可能性がなお低ければ、以下の2つのいずれかを選択する。 ①最終年度(2022年度)のさらにもう一年の繰り越しが可能かどうか検討のうえ、2023年度(2024年3月)までの期間に出張することを考える。 ②繰り越しと研究期間の延長が好ましくないなら、2022年度に国内で文献検索と図書購入、報告書(紙媒体)の製作と印刷を考える。
|
Research Products
(2 results)