2021 Fiscal Year Research-status Report
女子修道院と都市の発展:13世紀ブリュッセル都市化過程における女子修道院の重要性
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19K01083
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
舟橋 倫子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 講師(非常勤) (70407154)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 女子修道院 / ブリュッセル / 十分の一税 / 湿地開発 / 淡水魚 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度に分析対象としたのはブリュッセル市文書館に収蔵されている1246年までのラ・カンブル修道院の未刊行文書120通である。これらの文書からはブラバン地域で最初のシトー会修道院であるヴィレール修道院の指導下でシトー会女子修道院として創建される状況と初期の経済基盤形成が明らかとなる。特に、ブリュッセル南部を中心にに展開する湿地開発と所領形成に関する情報の抽出と分析から、ラ・カンブル修道院創設期の所領経営の方向性を検出することができた。それらの分析と最新の修道院研究の成果を照合し、社会経済史学会九州部会と日本ハンザ史研究会において研究報告を行った。 社会経済史学会九州部会では十分の一税に関する成果を取りまとめて報告した。個別文書の事例検討は、在地有力家系の世俗財産として保持されてきた十分の一税が、分割と譲渡の対象となり、やがて相互受益的な関係構築の要として修道院によって13世紀前半に集積されていった実態が明らかとなった。 ハンザ研究会においては修道院による淡水魚の養殖と流通に関する研究報告を行った。都市の経済発展に伴なって増大する淡水魚需要を支えるための修道院による都市周辺の湿地開発、最新のエコ・システムを導入した養魚池の設置状況を、最新の考古発掘調査と文献史料の突き合わせによって検証した。特徴的であったのは、ブルゴーニュのシトー会で実施されていた養魚技術がラ・カンブル修道院のコイの養魚において実施されていた点である。しかし、淡水魚養殖の特殊性と限定性にも留意する必要がある。急速に高まる魚の需要を満たすためには、外部から持ち込まれる加工魚(塩づけニシン)も重要な位置を占めており、両者の併存状況が維持されていたことが史料から確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナウイルスによる渡航困難という問題に加え、研究者自身の体調(治療)の関係で、現地での史料収集と専門家との文書検討会を実施することが出来なかった。代替措置として、文書館や図書館にオンラインでアクセスするとともに、デジタル化されていない史料・文献を現地の大学院生を通じて収集に努めた。 それらによって一定程度の情報収集を行うことが出来たが、間接的な方法であるために史料・文献の確認作業と系統的な整理に相当な時間を必要とした。そのために部分的な文献情報の分析と精査にとどまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画においては、3か所のブリュッセル女子修道院(フォレ、グラン・ビガール、ラ・カンブル)を対象とし、ブリュッセル市によって実施される考古発掘調査、市文書館での史料検討会の成果を適宜反映させた包括的な研究を遂行する予定であった。しかし、現地における研究・調査活動が停止し、直接的な情報収集と現地専門家との討論による史料分析が困難であると予想されるため、より効果的で確実な成果が見込める対象に研究を限定するのが適当であると考えた。 3修道院の未刊行文書史料の収集と関連文献の調査はほぼ終了している。その結果、ラ・カンブル修道院文書史料群が、研究課題である13世紀都市ブリュッセル発展における女子修道院の重要性を端的に検出できる対象であると判断した。ラ・カンブル修道院が、初期の都市ブリュッセルの発展において決定的な重要性を持っていた南部の湿地開発と住民の組織化の核として作用したことが確認できたからである。さらに、ラ・カンブルがシトー会の女子修道院であることから、近年において研究の蓄積が顕著であるシトー会女子修道院研究の成果の参照も可能となる。加えて、史料刊行と研究蓄積の進展がある程度実現されているフォレ、ラ・グランビガールに比して、ラ・カンブルの未刊行文書がほぼ手つかずの状況にあり、当該修道院の文書史料分析を進めることが重要である。 特に対象文書の三分の二を占める十分の一税関連文書分析を研究の焦点とする。都市新興家系の世襲財産となっていた十分の一税をラ・カンブル修道院が個別に集積してゆく状況は13世紀前半の都市とその周辺の状況を直接的に反映している。女子修道院によって主導される地域再編の進展という分析視角から、都市ブリュッセル初期の成長の検討をすすめる。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスによる渡航困難という問題に加え、研究者自身の体調(治療)の関係で、現地での史料収集と専門家との文書検討会を実施することが出来なかった。そのため、研究期間を一年間延長した。次年度は、成果のとりまとめを進めるとともに、必要に応じてブュッセル大学とルーヴァン大学の大学院生を介した情報の収集と関連文献の調査のために研究費を使用する。
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