2022 Fiscal Year Annual Research Report
女子修道院と都市の発展:13世紀ブリュッセル都市化過程における女子修道院の重要性
Project/Area Number |
19K01083
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
舟橋 倫子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 講師(非常勤) (70407154)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ブリュッセル / 女子修道院 / 危機 / 食料供給 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、これまで手付かずの都市ブリュッセル郊外に所在する女子修道院の未刊行文書史料の分析から、都市周辺の女子修道院が都市ブリュッセルの形成過程において果たした役割を具体的検討し、多様なネットワークの結合による新たな都市社会像を提示することを目指した。 2021年度までに、フォレとグラン・ビガール両女子修道院の史料分析から、12世紀後半から都市を襲った飢饉と疫病(麦角病)という危機的状況下において、両女子修道院が特に在地の聖人崇敬を軸とする地域再編を促進して秩序の安定に貢献した状況を明らかにすることができた。女子修道院は聖職者や労働力として内部に多数の男性を包括し、修道女の親族である俗人とも緊密で個別的な関係を維持する複合的な組織であることも確認できた。 危機の一要因として、都市と農村の経済発展のギャップと恒常的な都市への人口流入が考えられる。2022年度において分析対象とした、ラ・カンブル女子修道院は13世紀の初頭に都市的集落により近接して設置された。この史料分析から、都市を中心とする60キロ圏内に所領を形成し、都市へと流入してきた300人をこえる人々を助修士や奉公人として組織し、食料供給のために、これまで対象とされてきなかった河川沿いの低湿地の開発と管理に特化した所領経営を都市経済へとリンクさせてゆく様を描きだすことが出来た。 以上から、13世紀初頭の都市ブリュッセルが危機的状況にあったこと、さらに周辺の女子修道院によって、社会的なニーズに相応した多様な活動が実践されていたこと、そしてそれらの実態を検討することによって、これまで明らかにされてこなかった初期の都市形成の諸側面に新たな光を当て、研究の多面的な進展に貢献することができた。
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