2019 Fiscal Year Research-status Report
アルカイック期金石文の比較分析によるクレタにおける法の社会化に関する研究
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19K01087
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
古山 夕城 明治大学, 文学部, 専任准教授 (10339567)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ギリシア / クレタ / 法 / 金石文 / アルカイック |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題遂行において、2019年度は主としてアルカイック期金石文に関わる研究資料の収集、とりわけ青銅武具碑文および奉納銘文の実物観察と出土地遺跡における宗教施設遺構および墓地・埋葬地とのかかわりを、現地踏査による実地検分と画像データの収集および関連文献の渉猟と分析に焦点を定めた。 まず、2019年5月1~4日に福岡大学中央図書館において、プラトンの『法律』および『ミノス』について包括的な研究であるMorrowの文献を参照し、プラトンが得ていたクレタ社会の制度に関する内容について、貴重な比較分析と歴史的背景の手掛かりを得た。また、合わせて前野弘志による論考を閲覧し、法碑文を公共合理的な観点からだけでなく、奉納・宣誓・呪詛という呪術的象徴性を持つものとしても考察するにあたり、その儀礼において肉声化をともなう特定の形式が存在し、文面の理性的な理解よりも法存在の身体的な感得をもって社会化されていたのではないかという、見通しを持つことができた。さらに、九州産業大学の安永信二教授との意見交換によって、個々の史料の掘り下げた考察だけでなく、ギリシア世界を含む東地中海全体を視野に入れた俯瞰的な観点を持つことの重要性を指摘された。 次に、2019年7月29日~8月13日のギリシア・ドイツ調査において、青銅製ミトラの法碑文「スペンシティオス規定」の比較対象となるクレタの青銅武具奉納品の類例をオリンピア博物館にて実験観察し、法碑文宗教施設とのかかわりについて奉納という側面から考察することで、クレタのポリスにおける「法の社会化」のあり方を考察した。また、ペロポネソス半島各地の遺跡と博物館ならびにドイツで蒐集されたアルカイック期ギリシアの青銅製武具奉納品とその銘文を比較観察し、データ収集するというもっとも重要な目的を果たすことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度の研究の進捗は、2020年1月までは計画通りに進行していたが、2月後半より新型コロナウィルスの感染拡大により、2020年春に予定していた国内出張による関連資料の収集や研究者との意見交換の機会が失われ、3月段階では大学や研究機関図書館の利用にも制限がかかり、十分な文献を参照することにも支障が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルスの感染拡大が収まりを見せない現状においては、新たな研究調査や資料収集には限界があり、2020年度夏期に予定していた海外調査の実施も困難な状況にあると言わざるを得ない。 しかし、現在手元に集めてきたデータと文献を整理・分析して、本研究の課題である「アルカイック期金石文の比較分析によるクレタ法の社会化の歴史的実態」について、特異な形質と形状をもつ「スペンシティオス規定」に焦点を絞り、法の奉納と儀礼による身体性いう側面から「法の社会化」を考察する作業を進めていく。 もし、新型コロナウィルスの感染拡大がある程度の収拾を見せたなら、まずは国内の研究機関・大学図書館の利用と研究者との意見交換から本研究の遂行を広げていきたい。
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Causes of Carryover |
2020年3月の段階で国内の研究機関・研究者を訪問し、資料収集と意見交換を図る計画であったが、新型コロナウィルスの感染拡大によって移動と面会の機会が失われたため、予定していた国内出張の予算執行ができなくなった。
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