2020 Fiscal Year Research-status Report
バルカン戦争時におけるボスニアへの難民の流入とハプスブルク帝国の対応
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19K01089
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
米岡 大輔 中京大学, 国際学部, 准教授 (90736901)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ハプスブルク帝国 / バルカン戦争 / ボスニア・ヘルツェゴヴィナ / 難民 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目である2020年度は、1910年にボスニアで創設された議会において、セルビア人、ムスリム、クロアチア人の各政党が、オスマン帝国からの難民の増加をめぐりどのような主張を掲げ、さらにそれがハプスブルク帝国の対応にいかに作用したのか、という課題に取り組んだ。この課題の遂行にあたっては本来であれば、ボスニアに渡航し、各民族政党の機関紙や議会の議事録などを網羅的に収集・分析する必要があるが、コロナ感染症の急拡大に伴い渡航そのものを断念せざるをえなかったため、可能な範囲でそれらの史料をオンラインで収集することに努めた。機関紙に関しては、サライェヴォのガジ・フスレヴベグ図書館にオンライン上で利用登録することで閲覧できる史料の内容を確認した。そこでは、ムスリムの政党が刊行していた一部の機関紙(『Zeman』など)のみを閲覧できたが、バルカン戦争中の難民問題については詳細な議論などを発見することができなかった。当時の彼らにとっては、トルコ系やアルバニア系住民の流入以上に対応すべき内政問題があったとも想定されるが、この点については今後、他民族の政党の機関紙にまで視野を広げて分析を進める必要があるだろう。さらにボスニア議会の議事録については、サライェヴォ在住の研究者の協力もあり、バルカン戦争中の1912-1913年にかけての議会議事録(ボシャニャク研究所所蔵)を入手することができた。700頁以上に及ぶ大部の史料であるため現在も内容を精査中であるが、今後はこの史料をもとに、バルカン戦争中の難民問題をめぐる各民族政党の対応に加えて、政治家間による議論の詳細などを浮き彫りにしていきたい。 なお本研究の成果の一部として、「聖戦からユーゴスラヴィアへ-大戦とボスニア・ヘルツェゴヴィナのムスリム-」(『民族自決という幻影』昭和堂、2020年11月)が刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、コロナ感染症拡大に伴い、従来予定していたボスニアでの史料調査を断念せざるをえなかったが、その分オンラインを駆使しながら史料の収集・分析に努めた結果、ボスニア現地の研究者の協力も得ることができ、非常に貴重かつボスニア以外では閲覧が極めて困難なハプスブルク治下のボスニア議会議事録を入手することができたので、ある程度研究が順調に進んだと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、当初の計画のとおり、オーストリア国立文書館での史料の収集・分析を行う予定である。その際、ハプスブルク帝国が、オスマン帝国・アルバニア・バルカン同盟諸国といかなる外交交渉に臨み難民の帰還を実現させようとしたのか、という問題の考察を重点的に進めたい。ただし、オーストリアは現在コロナ感染症の拡大がおさまりつつあるが、状況によっては今年度と同様に現地に渡航できない可能性もあるため、その際は、ウィーン在住の研究者や諸機関とインターネットを通じてコンタクトをとり、史料の所蔵状況を確認するだけではなく、本研究に必要となる史料をPDFや画像ファイルで送付できないかどうかを粘り強く交渉し、その収集と分析に努めることにしたい。 なお研究成果に関しては、学会・研究会での口頭発表を行うことが難しい現状に鑑みて、オンラインツールを活用した報告会などで公表する予定である。また現在、学会誌に投稿する論文を鋭意執筆中であり、その完成にむけて積極的に取り組んでいく。
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Causes of Carryover |
本年度は一定期間海外での史料調査を実施予定であったがコロナ感染症の拡大に伴い断念せざるをえなかったため次年度使用額が生じた。2021年度はもし海外での史料調査が可能になれば、 本年度の残額に加えて、2021年度に請求した助成金も含めて執行する予定である。
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Research Products
(1 results)