2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K01096
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
野島 永 広島大学, 文学研究科, 教授 (80379908)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 考古学 / 古墳時代 / 前方後円墳 / 首長墓系列 / 広島県 |
Outline of Annual Research Achievements |
古墳時代前期には、広島市中心部の太田川下流域に竪穴式石槨(石室)を埋葬施設とする前方後円墳が連続して築造されるが、中期にはその造墓活動も衰退する。一方で、東広島市(西条盆地)では、帆立貝形前方後円墳か円墳が造営され、そこには箱形石棺が2~3基埋置されていたことがわかってきた。 今年度はまず、東広島市スクモ塚1号古墳(全長60mの帆立貝形古墳)、2号古墳(全長13mの円墳)の地下レーザー探査を行った。埋蔵文化財調査に実績のある㈱ウムヴェルトにレーザー探査を依頼し、スクモ塚1号古墳・2号古墳の地下埋葬施設を確認した。その結果、1号古墳では、後円部墳頂平坦面の偏った地点に著しい反応が見られた。このことから、埋葬施設は複数基存在する可能性が高まった。また、東広島市丸山神社古墳(全長60mの帆立貝形古墳)の埋葬施設についてもレーザー探査を計画し、地元説明とともに調査準備を開始した。 その後、スクモ塚2号古墳の発掘調査を行い、レーザー探査による調査成果の検証を行った。発掘調査の結果、2号古墳は粘土を上下に貼り込んだ木棺直葬が行われたのち、墳丘盛り土が行われ、墳丘最終面に箱形石棺がおそらく2基造営されていたことが判明した。スクモ塚2号古墳については、来年度に概要報告を行うこととした。 次に、広島大学考古学研究室では、太田川下流域、中小田古墳群・宇那木山古墳群・神宮山古墳群などの出土遺物が保管されているが、これらの理化学的分析を開始した。島津テクノリサーチとの共同研究として、広島市太田川下流域の中小田2号古墳から出土した甲冑の3DCT画像を作成した。この結果、横矧板鋲留衝角付冑の底板などの形状の詳細が明らかとなった。三角板鋲留短甲には、頸甲と肩甲が銹着していたことも新たに判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
東広島市(西条盆地)の前期・中期古墳には、石棺(一部小石室・木棺直葬)の複数埋葬が主流となっていた。このことについて、さらにその詳細を明らかにしていくため、東広島市のスクモ塚1号古墳・2号古墳の調査研究をすすめ、レーザー探査も行うことができた。さらには、丸山神社古墳などのレーザー探査を行うための準備も開始することができた。 また、広島大学考古学研究室に所蔵されている広島市太田川下流域の前期古墳出土遺物の理化学的分析を進めていくことについても一定の成果を生み出した。 しかし、2020年度末からのコロナ禍により、調査成果の発表や報告を行う予定を延期せざるをえない状況となった。社会状況が回復すれば、本年度の成果報告を速やかに発表し、概要報告書の刊行を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
広島県の首長墓系列の盛衰とその消長画期を含め、特定の系列にみられる諸要素を「系列の性格」(消長の画期、墳墓の存立様態、外表施設や埋葬施設(葬送儀礼)の共通性、副葬品などの多寡からみた評価)として捉えるとともに、さらに畿内政権の影響(依存度)を探るため、広島県の古墳時代地域首長墓の系列に関わる様々な情報の公開を行う。 来年度、東広島市スクモ塚第2号墳の発掘調査の報告書を作成する。スクモ塚第2号墳も他の東広島市の前期古墳同様に、箱形石棺などが複数基配置されるものであったことが判明した。これら箱形石棺の精査の結果、県下最大級の三ッ城古墳の石棺の埋設・葬送儀礼との間に多くの共通性が存在していたことを確認することができた。スクモ塚第2号墳の造営と相前後した東広島市スクモ塚第1号古墳の発掘調査を行い、その規模・外表施設や埋葬施設などの情報から、古墳群の造営時期の消長、存立様態を把握し、西条盆地での首長墓系譜の実態を明らかにしていく。数回計画している発掘調査の結果から、三ッ城古墳の成立過程を考察し、西条盆地の前半期古墳群の「系列の性格」を明らかにしていく。 また、広島市太田川下流域、中小田古墳群・宇那木山2号墳・神宮山1号墳などの出土遺物の理化学的分析を継続する。当該地域の首長墓の「系列の性格」を追求するとともに、畿内政権や吉備地域首長、周辺地域の動向を考慮しつつ、古墳時代前期を中心とした広島県西部(安芸地域)の政治的情勢を把握する。 以上の調査ののち、東広島市西条盆地と広島市太田川下流域の、前半期古墳群における「系列の性格」の比較を通して畿内政権と地域首長の動向に対する新たな視点を提供していきたい。そして、西日本でも九州東部から西部瀬戸内には、箱形石棺を首長墓(前方後円墳)の中心的な埋葬施設とする地域があるが、長期的な墓制の変容から、そのような地域的特性についても言及する。
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Causes of Carryover |
本研究における成果を含めた考古学研究室紀要11号の刊行が遅れた。このため、印刷費として次年度に支出する予定としている。
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Research Products
(2 results)