2021 Fiscal Year Research-status Report
Investigating the transition of dynasties at the end of the Middle Kingdom
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19K01098
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Research Institution | Higashi Nippon International University |
Principal Investigator |
矢澤 健 東日本国際大学, エジプト考古学研究所, 客員教授 (10454191)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉村 作治 東日本国際大学, 経済経営学部, 総長 (80201052)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 古代エジプト / 中王国時代 / メンフィス / テーベ / ダハシュール北遺跡 / コフィン・テキスト / 幾何学的形態測定 / 王朝交替 |
Outline of Annual Research Achievements |
エジプト中王国時代末期における統一王朝の衰退と北部メンフィス地域から南部テーベ地域への中枢の移動、その過程における外来勢力拡大との関係など、当該期の王朝交替プロセスを墓出土資料の考古学的検討を中心に碑文資料や理化学的手法を併用して解明することが、本研究の目的である。 分析のための資料取得を目指して、2021年度はダハシュール北遺跡の発掘調査を約1ヶ月半実施した。過去の調査で同遺跡最大の中王国時代の竪坑墓(No.158)が発見された地区に焦点を当て、その墓の両隣にある同規模の墓を発掘した。東隣の竪坑墓(No.163)の発掘の結果、本遺跡では初となる内面に碑文(コフィン・テキスト)が書かれた箱型木棺の断片が出土した。盗掘を受けており副葬品の多くは持ち去られていたと考えられるが、土器、ビーズの一部が残存していた。具体的な年代に関しては今後の検討課題であるが、コフィン・テキストの存在から本遺跡の中でも最古級に位置づけられると予想される。西隣の墓は未完成で使用された形跡は認められなかった。 また中王国時代後期の大型丸底壺形土器(通称「ビール壺」)を対象に、幾何学的形態測定学の1手法である楕円フーリエ解析と主成分分析を活用して、その地理的変異の可視化を試みた。完形の資料のみを対象とし、エジプト全土の出土例を集めその外形をデータとして利用した。分析の結果、第13王朝中期からデルタとテーベで形状の差異が鮮明になること、一方で13王朝中期のテーベ地域はそれ以前のメンフィス地域に近い形状であることがわかった。こうした傾向は研究代表者によって過去に指摘されていたが、これが数理的手法から裏付けられた。この結果を即座に支配層のメンフィスからテーベへの移動に結びつけることは早計と思われるが、土器職人を同伴する程の集団の移動があった可能性を示す1つの根拠として注目される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ・ウイルスの蔓延により前年度はエジプト現地での調査ができなかった。エジプト国内の状況は改善しており、今年度は発掘調査を実施することができたが、計画全体としては前年度の影響で約1年分の遅れが発生している。 一方で既存のデータの分析に注力することができ、楕円フーリエ解析と主成分分析を利用した数理的手法による土器の形状評価など、新しい手法を研究に取り入れることができた。この手法は型式学的な細分に依拠せず、形状同士の差異を数値で表現できるという利点がある。斉一性の高い遺物形状の評価に有効であることが指摘されており、中王国時代の土器の僅かな地域差を検討する上で有用である。ビール壺以外の器形やその他の遺物に対しても今後応用していくことを検討している。 前年度に現地調査ができなかったマイナス面と、新しい分析手法の導入のプラス面を考慮し、「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ・ウイルス蔓延のため2020年度に現地調査ができなかった影響により、研究期間を延長した。2022年度にエジプト現地調査を実施する予定であり、分析のための資料を追加していく。 また、新たに取り入れた楕円フーリエ解析と主成分分析による形状の評価を他の遺物にも応用し、異なる視点からも中王国時代末期の物質文化の地域性とその変遷を吟味していく。 さらに、人名から見た人口動態の変遷の分析を検討している。古代エジプト人の名前には地域性があり、その特徴を活かして人名の分布パターンを作成し、その通時的な変化を追跡する。人の大規模な移動があった場合は、人名の分布にも変化が生じるはずである。人名が記載された対象については、墓の遺構や出土コンテキストの明確な副葬品だけに限定する。墓が造営された場所は、被葬者の生活圏と概ね同地域と想定されるからである。2021年にA.イリントミッチが作成した中王国時代から第2中間期の網羅的な人名データベースがWEBで公開されており(https://pnm.uni-mainz.de/)、バージョン2の段階で5,680件のレコードがある。WEBサイト上での検索は機能に制限があるが、データベースのソースが公開されているので、SQLで独自のクエリーを通じて解析する方法を模索していく。
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Causes of Carryover |
コロナ・ウイルスの蔓延により2020年度にエジプト現地調査ができなかったため、計画を1年延長したことが理由である。 そのため2022年度に約1ヶ月半、エジプト現地調査を実施する予定であり、その旅費・滞在費、現地作業員への謝金、発掘や記録作業に使用する消耗品に大部分を使用する。
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