2023 Fiscal Year Annual Research Report
古代エジプト国家形成期における儀礼と権力に関する考古学研究
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19K01100
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Research Institution | Higashi Nippon International University |
Principal Investigator |
馬場 匡浩 東日本国際大学, エジプト考古学研究所, 客員准教授 (00386583)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 古代エジプト / 国家形成 / 権力生成 / 儀礼祭祀 |
Outline of Annual Research Achievements |
権力形成に関する近年の研究では、儀礼祭祀によるイデオロギー操作がエリートの権力形成において重要とされる。古代エジプトでは、ファラオを析出するに至る国家形成期にこうした権力形成があったと考えられるが、これまで十分な議論ができなかった。しかし、ヒエラコンポリス遺跡の調査により、エリートの儀礼空間と考えられる遺構が相次いで発見された。そこで本研究では、儀礼行為の具体的内容を明らかにし、その機能について考察することを目的とする。 本年度は、研究成果のまとめをおこなった。これまでの発掘調査により、ヒエラコンポリス遺跡では低位砂漠の涸れ谷内に、エリート墓地とともに祭祀施設とビール醸造施設が存在することが明らかとなった。墓地北端に設けられたマウンド状の祭祀施設では、特異な土製人形とともに、小型のビーカーとボウルが80%を占める土器集中が検出されたが、ビーカーの微化石分析によりビール残滓が検出された。つまりここでは、人形像とビールを用いた儀礼祭祀が執り行われていたのである。 儀礼祭祀の構成要素の年代は、どれもナカダIC-IIAB期である。ヒエラコンポリスでは、どこよりもはやくエリートが生まれ、かれらの地位拡大・維持をもたらす儀礼祭祀が実践され、その権力イデオロギーが大きな契機となって、国家形成プロセスは進行したと考えられる。スサを混和したビール壺はヒエラコンポリスで誕生するが、ナカダⅡC期までには上エジプト全体に拡散する。ビールを用いた儀礼祭祀や再分配システムが、社会統合のツールとして他地域で模倣され、ビール醸造と壺生産がパッケージとして広がったのであろう。この流れは、ⅡC-D期にデルタにも到達する。これまで言われてきたナカダ文化流入の実質的な開始と時期を一にする。ヒエラコンポリスにはじまる儀礼祭祀によるイデオロギーの共有が下地となり、後の政治的統合が達成されたと考えられる。
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