2020 Fiscal Year Research-status Report
有文当て具痕跡から窺える律令国家成立前後の地方の主体性と対朝鮮半島交流の研究
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19K01106
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Research Institution | Administrative Agency for Osaka City Museums |
Principal Investigator |
寺井 誠 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪, 大阪歴史博物館, 係長 (60344371)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 考古学 / タタキ技法 / 当て具 / 有文当て具痕跡 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は実物調査では、寒風窯跡群(7世紀、岡山県瀬戸内市)、邑久窯跡群(8世紀、岡山県備前市)、礼馬窯跡群(9世紀、兵庫県加古川市)といった生産地出土須恵器の内面観察を行った。寒風窯跡群では7世紀初頭の須恵器に楕円形の同心円文の内側に格子文を刻んだ当て具痕跡を確認した。このような当て具痕跡は米子市の日下9号墳にて確認しており、特徴的な当て具痕跡を基にした地域間交流の研究に繋げることが期待できる。邑久窯跡群では8世紀中~後葉の段階で平行文や格子文当て具痕跡の中には木目を観察することができた。礼馬窯跡群でも格子文や平行文といった同心円文以外の当て具痕跡の中に木目の痕跡を看取できた。このことは木製の当て具の当たり面に格子文や平行文を刻んでいることを反映する。同様の当て具痕跡は韓国慶尚道の6~8世紀の資料で多く確認しており、格子文や平行文の木製当て具は朝鮮半島に系譜が求められる可能性が高いことをあらためて確認することができた。 大阪府内では野々上遺跡(羽曳野市)で平行文当て具痕跡の残る7世紀後葉~末頃の須恵器壺を確認した。ただ、現段階でこの時期に該当する国内の事例があまり把握できておらず、生産地の検討が課題として残った。また、小山遺跡(藤井寺市)では外面に平行文に重ねて「X」字が刻まれたタタキ板を使用した須恵器壺を確認した。陶邑など近畿地方ではあまり見ない一方で、北陸地方で確認したことがある。こういった特異なタタキメも地域間交流検討の材料にできるであろう。 また、6~7世紀の大阪市内出土須恵器の当て具痕跡の調査を数回に分けて行い、数多く観察することができた。その結果、いくつかの須恵器で同心円文当て具痕跡の圏線とは方向が異なる木目を看取することができた。近畿地方では実例がないが、木目と異なる方向に刻んだ同心円文当て具が存在することを示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
予定していた韓国(慶尚南道及び京畿道・江原道)、東海、四国、山陰地方での実物資料調査が、新型コロナウィルス感染拡大により実施することができなかった。実施することができたのは上記のように岡山県と兵庫県(ただし、所蔵は大阪府内の機関)、大阪府の資料のみである。いうまでもなく韓国については渡航することができず、今後の調査の見通しすら立たない。東海地方については資料所蔵機関より調査延期の要請を受けたため調査が実現しなかった。他の地域についても感染拡大防止のため自主規制した。 こういった状況が大きく影響し、研究をほとんど前進させることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度についても2020年度と変わらない感染状況であると予想されるため、韓国や大阪府外の日本国内地域の出張が困難であることは十分考えられる。本研究は、発掘調査報告書からはなかなか得ることができない当て具痕跡の細部の状況を確認することを基盤にしているため、実物調査ができない場合は研究の達成が極めて困難である。2021年度は本研究の3か年の最終年度であるが、研究期間を延長することも検討している。 感染症拡大が抑えられているようであるなら、2020年度に実施できなかった実物調査を実現したいと考える。特に重点的に調査をしたいのは伊賀国府跡(三重県伊賀市)の木製無文当て具とされる木製品、美濃須衛窯跡群(岐阜県各務原市)の土製同心円文当て具、久米窪田Ⅱ遺跡(松山市)の木製同心円文当て具、大小谷谷窯跡(愛媛県四国中央市)の土製同心円文当て具といった当て具の調査であり、当て具痕跡との対比をできるような視点を養いたい。 なお、感染拡大が抑えられず、実物調査ができないようであれば、報告書などからの情報収集に重点を置き、次年度(2022年度)の実物調査につながるよう準備をしたいと思う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症拡大により、予定していた実物調査のほとんどが実施できなかったことによる。
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