2019 Fiscal Year Research-status Report
Research on the introduction process of artillery in the Warring States period of Japan.-About the influence of Islamic culture-
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19K01119
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Research Institution | Beppu University |
Principal Investigator |
上野 淳也 別府大学, 文学部, 教授 (10550494)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 大砲伝来 / 大航海時代 / 東南アジア / イスラム教 / ヒンドゥ教 / 蛍光X線分析(金属組成) / 鉛同位体比分析(産地同定) / 大友宗麟 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、戦国時代の日本に伝わった大砲(佛朗機砲)のルーツとなる東南アジアにおける青銅製後装砲の調査の実施を計画していた。本年度は、東南アジア東部の調査を実施した。インドネシア共和国の言葉では、後装砲は”Cetbang”と呼ばれるが、この大砲の調査をスラウェシ島周辺の島々で実施した。 夏季には、スラウェシ島南部のブゥトン島バウバウ市近郊のロンギ族の集落及びマカッサルの南に位置するスラヤール島で調査をおこなった。ロンギ村では、村のシャーマンのもとで保管されている蛇(ナーガ)形の後装砲、スラヤールでは島の元王族であったと考えられる一族の家でヒンドゥー的紋様が施された後装砲を調査した。特にロンギ村のものに関しては、大友宗麟の後装砲といわれている靖国神社遊就館と鹿児島市の尚古集成館に所蔵されている大砲に確認される紋様と同様の紋様を発見することができた。 冬季には、スラウェシ島北部のマナド市の北に位置するシアウ島へ赴いた。シタロ博物館収蔵の大砲は、竹の子紋等のヒンドゥー的紋様が施された後装砲を調査した。今年度の海外調査では、3門の後装砲の実測図作成と、内2門からサンプリングを実施することができた。 化学分析としては、トルコ共和国のルメリ=ヒサリ城塞の巨砲から採取した金属サンプルの蛍光X線分析及び鉛同位体比分析を実施した。金属組成は、銅を主成分としながらも、錫・鉛・亜鉛・砒素が2割を占める組成を示した。鉛同位体比は未知の領域を示したが、歴史的には、トラキア(現ブルガリア)やアナトリア(現トルコ共和国)の鉱山を由来とする同位体比である可能性が高い。 3月には、東南アジア考古学会で、1600年にマニラ湾口に沈んだサン=ディエゴ号に積載されていた金属製品の鉛同位体比データを整理し、特に青銅製大砲に関するデータを中心に据えた発表をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の海外調査は、インドネシア共和国内で”Cetbang”と呼ばれる東南アジアにおける青銅製後装砲の調査を実施した。特に、東南アジア東部における調査を計画し、スラウェシ島周辺の3つの島における現地調査に集中した。公的機関に所蔵されている資料及び伝統的なコミュニティーの中に入り込みシャーマンに管理されている資料の調査に成功し、これまで詳細が知られていなかった大砲の観察やサンプリングを実施することができた。 新型コロナ感染拡大の影響で、バリ島の調査は見送ったが、スラウェシにおける現地調査や人的交流等において、間接的に新しい情報も得ることができており、調査対象の資料数が増加した。 また、これら新資料の発見を通して、東南アジアの島嶼部では、本研究が注目するイスラム教の影響と共に形態や紋様などに、基層文化としてのヒンドゥ文化の影響を強く見出せることが改めて認識できた。この問題に関しては、本研究が大航海時代における東南アジア世界のイスラム化の過程及び文化的多様性の研究にも一石を投じるものとなってきたことを示唆するものとなった。次年度以降は、大陸部においては、ポルトガルの外交政策やポルトガル人傭兵の活動とともに、上座部仏教の影響も考慮してゆかなければならない。 化学分析に関しては、トルコのルメリ=ヒサリ城塞の巨砲の鉛同位体比は未知のデータであったが、歴史的にはトラキア(現ブルガリア)やアナトリア(現トルコ共和国)の鉱山を由来とする同位体比である可能性が高く、今後、これら地域の鉱山の鉱石の同位体比と比較することによって、未知の同位体比という空白の領域を埋めてゆくことができると考えている。また、蛍光X線分析における金属組成の調査に関しては、スラウェシ島南部において採取した後装砲の金属サンプルは、ヨーロッパ製のものと比較して銅に対し錫の比率が高く、亜鉛が多く含まれる事が追認された。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の2020年度は、スペイン及びポルトガル、オランダ等のヨーロッパにおける調査を予定していたが、昨年度の東南アジアにおける調査成果で得た新知見から東南アジアにおける調査の優先順位が高くなった。よって、新型コロナ=ウィルスの感染の収束状況及び治安状況を看取しながら、東南アジア大陸部のタイ及びカンボジアへ、島嶼部においてもフィリピンやインドネシア共和国のミアンガス島・ボルネオ島・ジャワ島・バリ島へと調査を再開してゆきたい。 また、コロナ禍の収束状況を見ながら、ポルトガル軍事博物館及びオランダの国立博物館と国立民族学博物館への事前調査交渉を開始する。 化学分析に関しては、昨年度に採取したシタロ博物館の後装砲から採取した金属サンプルの蛍光X線分析と鉛同位体比分析を実施する。
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Causes of Carryover |
本年度は、調査が予定よりも進展し、旅費の支出が増えた為、初年度に購入する予定であった調査データの管理や報告書を執筆するためのノート型パソコン1台を購入する予算が不足した。よって、翌年度分予算と合わせて、ノート型パソコン1台を購入する。
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Research Products
(3 results)