2021 Fiscal Year Research-status Report
Research on the introduction process of artillery in the Warring States period of Japan.-About the influence of Islamic culture-
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19K01119
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Research Institution | Beppu University |
Principal Investigator |
上野 淳也 別府大学, 文学部, 教授 (10550494)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 青銅製後装砲(佛朗機砲) / イスラム教 / ヒンドゥ教 / 蛍光X線分析 / 亜鉛 / 真鍮明銭 / 倭寇 / ポルトガル |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、これまで世界中の後装砲(佛朗機砲)を主体とした青銅製大砲から採取したサンプルの蛍光X線分析データの整理と比較検討をおこなった。ヨーロッパの大砲は銅主体に錫を1割加える傾向、日本の大砲は銅主体に錫よりも鉛を多く加える傾向、東南アジアの島嶼部であるインドネシアの大砲は銅主体に錫・鉛・亜鉛を加える傾向が把握されるが、大陸部であるマレーシアの大砲は銅主体に錫が多めに加えられる。この現象は、鋳造地における金属材料の調達状況の差異を示すものと考えられる。オスマン=トルコの大砲に関しては、再検討の結果、亜鉛が含まれていないと判断しなおした。 鉛同位体比分析を用いた産地同定においても、青銅製大砲に用いられている銅の産地は大きく2カ所に分かれる事が把握されつつある。これは大砲の原材料とする銅或いは青銅・真鍮製品の差である可能性がある。 インドネシアの大砲に関しては、亜鉛が一定量含まれることが特徴であるが、後期倭寇に関する記録中に「如銅銭用以鑄銃」という記載がある。中国銭は、銅主体に鉛と少量の錫という組成であったものが、嘉靖6(1527)年以降、真鍮銭が発行されるようになり、次第に鉛と錫を減じ亜鉛の割合を増してゆく。この真鍮明銭が、インドネシアに流入していたと想定することで、すなわち中国銭を”銭”としてではなく"インゴット"として捉え直すことで、この現象を説明できるかもしれないと考えている。特にイスラム教圏であるインドネシアのヒンドゥー的モチーフを擁した大砲に、亜鉛が含まれる傾向がある点は注目に値する。 本年度は、理工学系の学会である第57回X線検討会の依頼公演において、本研究成果の一部を発表した。また、南蛮交易をおこなった戦国大名大友宗麟の大砲鋳物師一族に関する研究をおこない、『別府大学大学院紀要』第24号に「御石火矢大工・豊府惣大工渡邊一族の系譜について」を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
海外調査を研究の主体としていた本研究は、新型コロナ・ウィルスの世界的流行の多大な影響を受けている。4か年で考えていた研究期間の中で現地調査を実施できたのは初年度のみである。令和3年度は、これまで世界中の後装砲(佛朗機砲)を主体とした青銅製大砲から採取したサンプルの蛍光X線分析データの整理と比較検討をおこなった。その中で、昨年度の研究における修正点も生じ、オスマン=トルコの大砲にも亜鉛が加えられる可能性を考えたがX線のピークを詳細に検討した結果、亜鉛は含まれていないと判断した。昨年度検討した鉛同位体比分析の成果と合わせて、東南アジア製後装砲と日本製後装砲とで、同じ華南産でも金属産地が異なっている可能性を指摘できつつあり、金属組成と金属生産地の2つのデータを組み合わせることで、科学的裏付けのある、より詳細な金属材料の流通と変遷を把握することができる可能性が得られてきている。 上記、文化財科学的成果に加え、『日本一鑑』や『天工開物』及びイギリス東インド会社の記録などから、鉄・鉛・錫・真鍮の流通についても検討を加え、より具体的な金属材料の流通を把握しつつある。 問題点としては、これまでインドネシア東部の調査は終えることができているが、インドネシア西部と東南アジアの大陸部における調査が不足している点があげられる。
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Strategy for Future Research Activity |
海外現地調査に関しては、新型コロナ・ウィルスの世界的流行で控えていたが、令和4年度はインドネシア西部と東南アジア大陸部における調査を実施してゆきたい。現時点でインドネシア及びタイに関しては、比較的入出国が緩和されているので、令和4年夏季と令和5年春季に現地調査を実施したいと考えている。 令和4年夏季に、新型コロナ・ウィルスの影響で調査が実施できない場合には、効率の良い研究費の使用を考慮して、研究期間の延長を考えている。また、国外調査が実施できない場合も考えて、国内に収蔵されている東南アジア製大砲の調査も実施する。 東南アジアへの大砲伝来の歴史的背景に関する論文に関しては、現在すでに執筆中である。この論文に、実資料の実測図及び化学分析データを加えることによって本研究課題の報告書としてゆく予定である。
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Causes of Carryover |
現地調査を研究の主軸としていた本研究は、新型コロナ・ウィルスの世界的流行の影響を受け海外現地調査を実施できなかった。結果、次年度以降に、海外現地調査を実施するための渡航費を維持しておく必要が生じた。 今後の研究の推進方策にも記した通り、次年度仕様額については、研究期間の延長も見据えて、インドネシア西部及びタイ及びカンボジアへの海外現地調査の渡航費として使用する計画である。
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Research Products
(4 results)