2022 Fiscal Year Research-status Report
基礎構造分析に基づいた近世漆塗製品の保存処理及び形態・組成に関する研究
Project/Area Number |
19K01123
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柴田 恵子 東北大学, 埋蔵文化財調査室, 専門職員 (70322980)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 近世漆塗製品 / 保存処理 / 塗膜構造分析 / トレハロース / X線CT |
Outline of Annual Research Achievements |
保存処理方法については、一昨年度より、出土遺物での実験の前段階として、生花用スポンジを試料としてトレハロース含浸処理実験を行ってきた。今年度は、生花用スポンジを用いて処理を行った後、試料の内部状態を視覚的に捉えるべく、東北歴史博物館所有の装置でX線撮影を行った。これにより、処理条件の違いによる生花用スポンジの内部状態の傾向を知ることができた。また、濃度の異なるトレハロース水溶液を室温で静置した場合、あるいは扇風機の風を当てた場合の固化の様子を動画で撮影し、トレハロース水溶液の固化の特性を確認した。 塗膜構造分析については、弘前大学人文科学部所有のEDS装備走査型電子顕微鏡を現地で借用する予定であった。分析対象171点のプレパラートを最終段階まで研磨していたが、コロナ第6波と2022年3月の地震による新幹線運休の影響で、弘前大学に行くことができたのが5月であった。次善の策として、その間に宮城県産業技術総合センターの類似機器を借用して塗膜分析を進めていたが、全試料を分析終了したのが9月となり、大幅に遅れてしまった。その後、全資料の分析結果が揃った10月段階で、塗膜断面の電子顕微鏡写真と元素マッピング画像を画像処理ソフト上で重ね合わせて、測定元素と塗膜構造の位置関係を確定させることができた。その上で、漆椀に用いられた樹種、色漆の材料、塗膜・下地の構造を比較し、漆椀のタイプ別に、樹種、家紋・文様の関係について検討を始めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
保存処理方法については、実際の出土遺物で行う実験の前段階として、トレハロース含浸処理法における処理条件の違いによるトレハロースの固化状況の違いを確認するために、試料(生花用吸水スポンジ)のX線撮影を行った。また、トレハロース水溶液の濃度および乾燥条件の違いによるトレハロースの固化の様子を観察するために動画撮影を行った。その結果を精査し、出土近世漆塗製品の保存処理に適した処理条件を導き出すところまで進める予定であったが、他の業務が重なり、検討段階に留まり、適する処理条件をみつけるまでには至らなかった。 塗膜構造分析については、コロナ禍初期の学内への立ち入り制限があり、実験室でのプレパラート作製と研磨の計画がかなり遅れてしまった。その後、感染状況を見計らいながら、塗膜の成分元素分析を行うため、弘前大学にてプレパラートの試験的分析を行い、限られた時間で効率的に分析するための準備をしつつ、往来可能なタイミングを待っていた。その間、プレパラートの最終的研磨、分析前の塗膜構造の写真撮影などの準備を終え、弘前大学での機材借用の依頼を行った段階でコロナ第6波のため、分析予定が中止となった。第6波収束を見据えて次の分析依頼をしていたが、2022年3月の地震で東北新幹線が不通となり、運行が再開するまで弘前大学での分析ができなかった。その後新幹線の運行が再開し、5月、6月には弘前大学での分析を実施することができた。しかし、分析中にプレパラートの研磨状態によっては分析できないものもあり、再研磨が必要となるものも出てきた。宮城県産業技術総合センターでの分析も並行して行いつつ、再研磨、分析を幾度か繰り返し、分析データがすべて揃ったのが9月となった。その後、試料1点ごとに塗膜構造を同定・検討を進めたが、全体の進捗は遅れてしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
保存処理方法については、これまでの実験で得られたトレハロース水溶液の固化の特性から、出土近世漆塗製品の保存処理に適した処理条件を検討し、導きだしたい。その後、別途、その条件のもとでの確認実験を実施したのち、出土遺物への適用に臨みたい。また、その評価をするために処理後の資料をX線CT撮影したいと考えている。 塗膜構造分析については、今回対象とした試料すべての分析結果が揃っている。塗膜構造と漆椀の器形、文様、樹種との関係性があるのか、当該の18世紀前葉の資料についてとりまとめていきたい。また、前後の年代については、北野信彦氏の研究成果(北野2000「東北大学構内(仙台城二の丸跡)遺跡出土漆器資料の材質と製作技法」『東北大学埋蔵文化財調査年報13』があり、当該資料と比較を行い、まとめとしたい。 また、今回の研究で得られた樹種やハンドヘルド蛍光X線、塗膜顕微鏡写真、EDS/EDX分析結果など、すべてをとりまとめて、見やすい形で公開できるように編集・提示作業を進めていく。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、EDS/EDX分析は弘前大学に出張して全点分析する予定であった。しかし、コロナ禍の行動制限と地震による新幹線不通など、コロナ禍の3年間で計画に大幅な遅れが出てしまった。そのため、プレパラート全点を弘前大学で分析するには時間的に無理な状況となった。 次善の策として、この間、宮城県産業技術総合センターにて類似機器があることを探し、利用料を支払って借用する予定であったが、試験測定をした際に希望する測定方法では機器に故障が出ることがわかり、希望する測定ができないことが判明した。そのため、産業技術総合センターから、本来は貸し出ししていないタングステンSEMを借用できることとなり、本来は貸し出していない機器のため料金を徴収する必要がないとのことで、その分の機器利用料金が不要となり、予定していた分析費分が余ることとなった。 その分は、予算の都合上、X線CTの撮影を見送っていた試料について点数を増やして、より多くのデータを得て、保存処理条件の判断基準にしたい。
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