2019 Fiscal Year Research-status Report
気候変動下における沿岸堆積物の動態と漁場認識―零細金採掘地域をモデルとして―
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19K01158
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
川瀬 久美子 愛媛大学, 教育学部, 准教授 (40325353)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池口 明子 横浜国立大学, 教育学部, 准教授 (20387905)
赤坂 郁美 専修大学, 文学部, 准教授 (40574140)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ASGM / 零細金採掘 / フィリピン / 気候変動 / 環境ガバナンス / 水銀汚染 / 漁場認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年8月にフィリピンのホセパンガニーバン市において現地調査を実施した。まず,研究協力パートナーであるホセパンガニーバン市市議会を訪問し,本研究事業の狙いや意義・効果についてプレゼンした。また,現地におけるASGM(零細金採掘)の現状を知るため,ASGMの採掘精錬事業者を訪問し,採掘精錬工程を見学した。また,近日稼働予定の水銀を使用しない安全な精錬方法の共同事業施設を訪問した。さらに,ASGMと複合的農業経営を組合方式で実施している団体を訪問し,団体設立の経緯や運営方法などについて聞き取り調査をおこなった。 上記と並行して,研究代表者・川瀬はマンブラオ湾の湾央の5地点の表層堆積物を内径10cmのアクリル管に採取して持ち帰り,厚さ10cmごとに切り分け分析試料とした。現在、Pb-210年代測定と水銀含有量,および珪藻分析用に試料を処理中である。分担者・池口は,沿岸集落において食事の計量調査をおこなった.また同自治体市議会メンバーや,鉱石粉砕プラントの経営者等,水銀汚染対策にかかわるステークホルダーと意見交換をおこなった.分担者・赤坂は,調査地域周辺の気候とその変化を把握するため,ホセ・パンガニーバンの5つの村の住民を対象に,気候変化に関する聞き取り調査を行った。結果として,強雨や洪水の増加等に関する回答が得られ,住民の多くが気候の変化を認識していた。また,調査地から最も近い気象観測点(ダエト)の月降水量データ分析から,1990年代半ば以降,年降水量と多雨期(10~12月)の降水量が共に増加傾向にあることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象地域であるホセ・パンガニーバン市では協力者のDr. Aviado, Sarah M.P.の尽力もあり,本研究事業の狙いや意義にが市議会に認められ,協力関係を築くことができた。 懸念されていた堆積物の採取は順調に遂行できた一方,想定していた気象史料の一つであるダム管理事務所の気象データは,想定していた施設が日本でいうところのダムではなく貯水池規模のもので気象記録がないことがわかった。しかし,本地域に近い気象観測点ダエトのデータを入手することができた。また,沿岸漁村の漁場認識や漁業資源利用についても,計画通りに聞き取り調査ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大防止措置のため,予定していたフィリピンでの継続調査の実施が困難と推測される。今年度は,2019年度に各研究者が入手したデータの整理・分析にあたる。また,スキャニングした気象史料などデジタルデータとして現地から送信可能なものは,新しく入手し解析する。 2019年のフィリピン調査では,安全なASGMと農業の多角経営を実践している共同組合を訪問した。有機水銀中毒と農業経営の関わりや流域の環境保全という観点で,熊本県水俣市で減農薬の甘夏栽培に取り組む水俣病被害者に聞き取り調査を実施する。 また,先行研究のレビューと昨年度の現地調査に基づき,ASGMに対する地理学的アプローチの意義や課題について整理し,地理学界に提案したい。
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Causes of Carryover |
海底表層堆積物のPb-210年代測定を専門業者に委託する予定で予算を計上していたが、研究協力者に測定を依頼することになり、支出することがなくなった。一方、表層堆積物の採取自体は成功しているが、分析途上であり、内容物の撹乱などのない最適な状態の試料かまだ判断できない。場合によっては2010年度に再び採取する必要があり、船のチャーター代など2010年度に予算を繰り越すことにした。
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