2019 Fiscal Year Research-status Report
インドシナ半島における河川環境の変化が遺跡立地に与える影響
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19K01164
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
船引 彩子 東京理科大学, 基礎工学部教養(長万部), 講師 (30645487)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保 純子 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (90275967)
米澤 剛 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (90402825)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | インドシナ半島 / 完新世 / デルタ / 河川 / オケオ遺跡 / チャーキュウ遺跡 / ホイアン / ベトナム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成31年度にはベトナムのアンザン省とクァンナム省において現地調査を実施した。その具体的内容、意義、重要性は以下の通りである。 (1)研究代表者・船引と研究分担者・久保はベトナム中部クァンナム省ホイアンおよびダナン周辺において、トゥボン川下流域の地形について踏査し、海岸部の浜堤列において堆積物を採取した。さらにクァンナム省チャーキュウ遺跡の踏査を行い、河川堆積物を採取した。本研究では、トゥボン川低地においてボーリングコアの掘削を予定しており、そのための事前調査となった。 (2)研究代表者・船引はベトナム南部社会科学院が行っている、アンザン省オケオ遺跡での発掘調査に同行し、2-3世紀頃まで使われていたという運河跡のトレンチにおいて層相を観察し、年代測定、花粉、珪藻分析用のサンプルを採取した。花粉分析はベトナム考古学院のNguyen Thi Mai Huong博士、珪藻分析はハノイ国家大学のNguyen Thi Thu Cuc博士に依頼した。オケオ遺跡は 1世紀から 7世紀にかけてメコンデルタ(現在のカンボジア、ベトナム南部)から 東北タイ南部 にかけて栄えた古代国家、扶南国の港市である。当該地での河川環境の調査は、オケオ周辺の堆積環境のみならず、メコンデルタの形成史に関する研究を大きく前進させる資料である。 (3)研究分担者・米澤はベトナム中部クァンナム省ダナンを中心とした野外調査データ(標高測量データ)を用いて微細な地形データ(DEM:Digital Elevation Model)を作成し、作成したDEMの検証をおこなった。 (4)研究代表者・船引と研究分担者・久保は東南アジア考古学会主催の研究集会内『ベトナム南部・オケオ遺跡をめぐる近年の調査動向:「扶南外港」の実態解明を目指して』において、これまでのインドシナ半島東部に位置するデルタ平野と遺跡に関する研究成果について、講演発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)ベトナム中部クァンナム省ホイアン周辺はトゥボン川の下流域にあたり、数千年スケールでのデルタの地形変化を明らかにするため、ボーリング調査の実施を予定している地点だが、現地での聞き取りの結果、海岸部の砂丘地域は工業地域としての開発が進んでおり、地権者との交渉は難航することが予想される。 またトゥボン川中流のチャーキュウ遺跡では、2018年秋に水田で農民による遺跡破壊(水田の深い耕起)が発生し、現地行政機関が遺跡の現況を変えることに敏感になっているという現状について確認できた。そのため、日本からの考古学分野の発掘調査の実施も難しく、ボーリング調査においても困難が予想される。 (2)ベトナム南部、メコンデルタにおけるアンザン省オケオ遺跡では、7点の放射性年代測定を行うことができた。運河の最下部からは2-3世紀の年代を示す試料が多く得られ、深いところでは地表から2-3mまで掘りこんでいることがわかった。また運河の下に見られる沖積層からは8000-3000年前の年代が得られた。 花粉や珪藻などの微化石分析は、主に運河の下に見られる沖積層からサンプルを採取した。完新世初期の海水準上昇期の花粉は、バックマングローブを始め、海と陸との境界付近に生育する植物の花粉が多くみられる。5000年前頃の高海水準期の層準からは、より海側に生育するマングローブなどの花粉が多く検出された。珪藻は汽水域のものが多く、完新世の海水準高頂期における内陸までの潮汐の影響が及んでいたと考えられる。 (3)ダナン市周辺のDEM 作成においては、パラメータ設定の影響を詳細に検証し、DEM作成における適切なパラメータ設定基準を提案した。作成したDEMはダナン市のような平坦な地形についても効果的であることがわかった。また、水文解析や洪水ハザードゾーネーションの分野においても有効に利用することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)チャーキュウ遺跡発掘などの中部のホイアン周辺でのボーリングに関しては、ベトナム側との交渉が進んでおらず、来年度以降のチャーキュウ遺跡付近の調査に合わせて打診を行う予定である。 (2)フランス国土地理院への協力要請を行い、ベトナム中部のホイアン・ダナン周辺や南部のオケオ遺跡周辺での古地形図や航空写真の取得を目的として、フランスへの渡航を検討している。 (3)地形解析に関しては、これまで作成したダナン周辺のDEMに加え、画像解析ソフトMetashapeを用いて航空写真からもDEMを作成し、両者を統合して高精度な地形データを作成する。 (4)2019年度の調査で得られたオケオ遺跡における放射性炭素年代値、珪藻や花粉分析の結果をもとに、完新世を通じたオケオ周辺の環境変化について整理と研究、報告を行う。オケオの運河はメコン川の本流が南流するのに対し、カンボジア国境付近からタイ湾に向けて西流する。流路が短くなるという利点もあるが、既往研究ではこの流路を旧河道とする者もある。運河と旧流路との関係を明らかにすることを目的とする。オケオ遺跡においては、ベトナム南部社会科学院による学術調査が続いており、運河内における微化石分析も進められている。今後は彼らの進める研究成果も参考に、メコンデルタにおける河川環境の変化について検討を進める。 (5)しかしながら、新型コロナウイルスの世界的な感染状況などを鑑み、今後2年間の研究に関してはどれほどの進展があるか予想が難しい状況である。昨年度の成果については、2020年5月にハノイにおいてオケオ遺跡の研究成果に関する国際シンポジウム、8月にトルコで開催予定の国際地理学会で発表する予定であったが、新型コロナウイルスの影響でそれぞれ中止、延期となっている。今後はベトナム側とも協力し、入手可能な資料を最大減に活用し、研究成果を上げていく方針である。
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Research Products
(1 results)