2019 Fiscal Year Research-status Report
Crustal movement using the stracture of micro atoll along the Ryukyu Trench
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19K01165
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
前杢 英明 法政大学, 文学部, 教授 (50222287)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宍倉 正展 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究グループ長 (00357188)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | マイクロアトール / 地殻変動 / 琉球海溝 / 地震隆起 / サンゴ礁 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、沈み込み型プレート境界に位置する日本列島太平洋側、とりわけ琉球海溝沿岸において、定常的地殻変動と地震性地殻変動との相互作用を具体的に解明することによって完新世海成段丘の形成メカニズムをより精密に解読し、ひいては地震や津波の長期発生予測による地域の防災・減災に寄与することを目的としている。琉球海溝に面する南西諸島には、マイクロアトール(微環礁)とよばれる、その頂面の高さがほぼ平均低潮位に規定されるサンゴ群体が生息している。その形状、分布高度および形成年代などを利用して、検潮計では捉えられない過去数100年間以上の古水深の長期変動、すなわち陸地の定常的な隆起・沈降様式を推定し、それがこれまで主に地震性隆起によって説明されてきた完新世海成段丘の形成メカニズムにどのように寄与しているのかを具体的に明らかにする。本年度は8月30日~9月2日、9月28日~30日に、南西諸島奄美大島の南東沖に位置する喜界島北東海岸において、内湾に成長している直径約3m程度のマイクロアトールを、その中央付近から外側に向けて幅10cm、深さ20cm程度の柱状の試料を、油圧チェーンソーを用いて連続的に採取した。採取した試料は、CTスキャンなどを利用して堆積構造を可視化し、年輪をカウントするなどの方法により、成長方向や時期・期間などについて分析を進めている。今後は完新世段丘などから古地震を復元する研究の専門家である研究分担者とともに喜界島のマイクロアトールのさらなる調査を、総合的な自然地理学的研究方法により行い、同地域での地殻変動の傾向を、時間スケールで10年オーダーから1000年オーダーまで切れ目無く復元し、琉球海溝における沈み込み帯の地殻変動様式の特徴を詳細に捉えることができれば、最終的に地域防災・減災計画に寄与していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マイクロアトールを採取するためには、海水中で作動するチェーンソーなどの切削機が必要であり、電気やエンジン式は使えないため、油圧式チェーンソーを使用することとした。これにはオイルのコンプレッサーとそれを動かす発電機などを、マイクロアトールから半径10m以内に設置する必要があり、危険なサンゴ礁海岸での重量物の運搬を伴うため、非常に困難を極めた。人員や潮位などを調べ、器具の周到な準備のもと、本年度は8月30日~9月2日、9月28日~30日に、南西諸島奄美大島の南東沖に位置する喜界島北東海岸において、内湾に成長している直径約3m程度のマイクロアトールを、その中央付近から外側に向けて幅10cm、深さ20cm程度の柱状の試料を、油圧チェーンソーを用いて連続的に採取することに成功した。採取した試料は、研究分担者の所属機関が所有するCTスキャンなどを利用して堆積構造を可視化し、年輪をカウントするなどの方法により、成長方向や時期・期間などについて分析を進めている。予察的な分析結果によると、試料採取したマイクロアトールは、一様な隆起・沈降を示すような傾向はみられず、かなり複雑な相対的上下運動を繰り返していることがわかった。マイクロアトールの年輪からは、AD1914~1950までは年平均1.04cmの速度で成長し、AD1973~現在までは年平均1.12cmの速度で成長していることがわかった。また、このマイクロアトールは現海面まで垂直に成長した後、約120年側方に成長し続けていることもわかった。研究期間初年度としては、概ね想定以上のデータが得られたと言える。このため概ね順調に進展しているという判断とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、変動を面的に捉えるために、喜界島北部地区など、他地区での調査に範囲を拡大するとともに、構造が単純と推定されるもう少し小型のマイクロアトールや、隆起した大型のマイクロアトールの連続した試料採取を行い、ここ1000年間くらいの喜界島の相対的地盤運動を明らかにして行く予定である。そのために、本年6月には第3回目の調査を計画している。マイクロアトールは測器による検潮観測が行われはじめた19世紀半ば以前の平均潮位の長期的変化を復元できる古潮位計として利用できる自然の産物と考えることができる。IPCC第4次報告書(2007)によると、温暖化によると考えられる平均海面上昇率は、特に1940年代以降加速され、1961~2003年の年平均上昇率は世界平均で1.8±0.5ミリとされている。地殻変動速度をマイクロアトールから導き出すには、温暖化による急激な海面上昇期間より古い時代にさかのぼれる、少なくとも直径が2mを超える、つまり概算で100年以上成長し続けているマイクロアトールを利用する必要がある。デジタル測量機器を用いたマイクロアトールの形状の精密測量、VRS測量や水準測量を用いた分布高度の精密測量、および放射性炭素年代測定やサンゴ群体の切り出しによるサンゴ年輪分析、さらに地元住民への聞き取り調査なども併用して、総合的な自然地理学的研究方法により検潮計ではとらえられない過去数100年間以上の古水深の長期変動、すなわち陸地の定常的な地殻変動様式を推定し、それがこれまで主に地震性隆起によって説明されてきた完新世海成段丘の形成メカニズムにどのように具体的に関与しているのかを明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、喜界島等において現地調査をもう少し長期間行う予定であったが、本務校での校務との関係で十分な調査時間をとることができず、調査を次年度に繰り越して行うことにしたため。 翌年度分として請求した助成金と合わせた仕様計画は、令和元年度に行えなかった、喜界島および周辺諸島での新たなマイクロアトールを採取できる場所を踏査するための現地調査を数回行いたい。また調査を効率的に行い、また大縮尺空中写真を利用して、高解像度の標高モデルを取得するため、ドローンの撮影調査も計画している。
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