2020 Fiscal Year Research-status Report
朝鮮時代の国土地理認識における「水経」の基礎的研究
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19K01196
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Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
轟 博志 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 教授 (80435172)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 歴史地理学 / 実学 / 山水考 / 朝鮮王朝時代 / 地理認識 / 水経 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度に漢江水経に関して試験的な研究を行ったことに続いて、その範囲を朝鮮半島全土に拡大した。「山水考」に記されている全ての経由地名等についてエクセルでデータベース化したうえで、その類型について考察した。その結果、「河川」という自然地理的な要素に依拠しているにもかかわらず、人文的な要素や、人文自然双方の要素を具備していると考えられる地名が過半を占めていることや、河川の選択基準も地方都市の存在など、人文的な理由が大きく作用しているなど、人文的な視点からの体系構築であったことが、はっきりした。 英祖王の時代に、申景濬という優れた地理学者を擁して構築された国土地理体系の主たる要素は山と川、そして道路であった。これは人間世界が、天上の星辰(天文)と、それに相対する「山川道里(地理)」に囲まれて成り立っているという、東洋古来からの「天覆地載」の思想に依拠していると思われる )。つまり申景濬以前に、地理の要諦は「山川道里」であるという思想は定着しており、『山水考』や『道路考』はその具体化、『山経表』や『道里表』はその現実社会への還元と捉えられる。 山は自然地理であり、道路は人文地理であり、河川はその両方の性格を持っている。これらの要素が三位一体になって、平行または交差することによって、国土の座標軸を編み出し、また各地方都市の位相を明確にする。そのことによって得られるものは、王権の及ぶ範囲を明確にするという地政学的な側面、風水地理説を媒介に自然と人文を結合する思想的な側面、そして現実の旅行や択地に役立つという実用的な側面である。自然と人文の融合と、思想と実践の融合は、とりもなおさず朝鮮実学の特色でもある。申景濬による国土地理体系の確立は、朝鮮実学の代表作と言ってよいであろう。 以上のような趣旨を、「立命館文学」に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度はデータベース化や理論構築などを中心として行った。データベース化の終了は予定通りであるが、理論構築は研究計画にあったとおり、本来最終年度に行うものである。それを部分的に前倒して行ったのは、本来本年度の研究の中核をなす韓国での現地調査が、新型コロナウイルスの世界的なパンデミックによる入国規制によって、全く行えなかったことによる。 データべース化した内容と、現地の景観を比較することや、現地の郷土史関係の資料を収集することは、正確な経由地の比定や、帰納的な理論の導出に非常に重要であったので、それができないことは大きな痛手であった。今年度は上記のように、データベースをもとに(また、それに伴って実行した作図をもとに)行った理論研究を学会誌に発表し、学会発表も行ったものの、理論はいまだ仮説の段階にとどまっている。 そのためやむを得ず、「やや遅れている」を選択せざるを得なかった。今後の新型コロナウイルスの蔓延状況などによっては、2022年度までとなっている、研究期間の延長も視野に入れざるを得ないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の結果を踏まえ、今年度の研究の方向性を、以下の2項目に策定した。 ①データベースをもとにして、『水経表』を作成する。このために、『山水考』から『山経表』への編集過程とその原理原則を分析し、その結果を適用することで、可能な限り当時の実学者の立場に立った作成を試みる。このため、水経のみならず山経に対しても、 ②特定の河川水系を事例として、悉皆的な現地調査を試みる。現地調査の目的は経由地名の比定、河川の比定、景観観察、郷土資料収集などにある。現時点では、支流の種類が豊富であり、邑治や山経との関係も多種多様な事例を採取できる洛東江水系または錦江水経とすることを想定している。さらに予算上の余裕が残れば、可能な限り38度線以南の河川については全数調査を行う。その結果を持って、上記①の内容のさらなる精緻化と、復元図の作成を行う。 以上の内容から、2020年度に行った理論化の作業もアップデートし、山経と水経、道路まで合わせた国土地理全体のアイデンティティを明らかにするという、本課題本来の最終目的を完成させる。 ただし、②に関しては、新型コロナウイルスのパンデミックが収束することが前提となるので、不可能であった場合、課題の一年延長を考慮する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの蔓延により、韓国等への研究出張が一切行えなかったため。そのため、渡航制限が解除され次第、研究出張を行う。年度中に解除がされない場合、2022年度への延長も考慮する。
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