2020 Fiscal Year Research-status Report
Anthropological research on the dynamics and diversification of sexual phenomena in Indonesia since democratization
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19K01202
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
伊藤 眞 東京都立大学, 人文科学研究科, 客員教授 (60183175)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 社会人類学 / インドネシア / ジェンダー / セクシュアリティ / トランスジェンダー / ブギス / イスラーム主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 前年度納入が遅れたオランダ統治時代(1905-1941)の資料(オランダ国立文書館)のデジタル化を行った。約3000頁に及ぶ文書をPDF化した。とくに1930年代は植民地行政下にありながら西欧の自由主義的な考え方が浸透しつつあった時期であり、今日の性に対する考え方を理解するのに比較する価値がある。なお、同資料は、研究者間で共同活用する予定である。 2. 今日のインドネシアにおける性と婚姻、LGBTに対する見解の動向を把握するべく、新聞・雑誌記事を政治家、学者および宗教的有識者の発言に注目しつつ、インターネットサイトで閲覧収集した。その結果、イスラーム主義団体やそれを基盤とする政治家には、LGBTを欧米の自由主義思想と同一化し、排除しようとする傾向が認められた。とくに同性愛的行動に対しては、強い拒否的反応が認められた。一方、インドネシア各地に伝統的に認められてきた異性装者には、それに同性愛者も含まれるものの、必ずしもイスラーム側からの排除の対象とはなっていないことが判明した。 3. インドネシア民主化以降に見られる性表現の自由化に着目し、YouTubeなどインターネット上に公開された映像データやDVD資料を収集し、カタログ作成作業に着手した。興行映画を主な対象に民主化以降の上映作品168点を登録したが、大半はホラー及びアクションに分類される結果であった。 4. インドネシアの若い世代の性・婚姻に対する考え方を理解することを目的として、気仙沼漁港周辺で働くインドネシア人を対象に聞き取り調査を行った。面接した女性はすべて高校卒業後、日本語職業訓練校で約半年間の訓練を受けた後に技能実習生として来日にしており、未婚であった。日本滞在中はアパートと工場の往復という生活を繰り返しで異性と交際する機会は非常に限られており、将来の結婚を帰国理由とする者が多いことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1. 計画に遅れが生じた最大の理由は、コロナ禍のため海外への出入国が困難となり、2020年度に予定していたインドネシアでの現地調査を実施できなかったためである。また代替策として考えたマレーシアでの調査もコロナ禍のため、困難となった。以上の理由から、つぎの2及び3は、現地調査が難しい状況で不足を補うための対応策として新たに進めたものである。これらの作業によって年度当初予想された調査計画の遅れを十分ではないにせよ、補うことが可能となった。 2. 前年度までの新聞記事等の資料収集作業に加えて、2020年度には映像・メディアの分野でも資料収集を始めた。映像表現(とくに大衆映画)における同性愛、トランスジェンダーというテーマは、民主化以降のインドネシアにおける性表現の自由化の中で現れたものであり、民主化以降における性観念の動態的理解を目指す本調査研究を補強する視点として重要である。 3. 日本在住の比較的若いインドネシア人を対象に、性及び婚姻に焦点をあて聞き取り調査を行なった。対象は、技能実習生として来日した大半が20歳代の男女である。技能実習生は、いわゆる未熟練労働者と比べて相対的に教育歴が高く、現今のインドネシアで起きていることにも関心が強いので、概ねよき情報提供者となりうる。そうした若い男女との聞き取り調査は、現地調査の不足を補う意味で有益であった。 4. 2及び3の作業に加え、前年度から進めている性現象に関わる文献や新聞雑誌記事の資料収集についても継続的に進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 現在のインドネシアにおけるコロナウィルスの蔓延は、2021年度下半期において事態の終息が困難な見込みである。また日本でのフィールドワークの実施も予断を許さない状況である。従って、現地調査の可能性を探りつつも、当面は2020年度に行なったデジタル化したオランダ行政文書、性現象に関わる書籍刊行物・新聞雑誌などの記事資料、さらに映像資料の収集を充実化させ、より集約的な文献資料調査を行う予定である。 2. 2020年度にデジタル化したオランダ行政文書資料(1905-1941)から性に関わる問題や事件についての記述(例えば、駆け落ち、姦通、同性愛など)を抜き出し、行政当局者、宗教職能者、慣習法遵守者など異なる社会的立場からの見解を精査する。 3. 書籍刊行物、新聞・雑誌資料については、性の多様化を示す現象についての言及に焦点を当て、(1)公的立場にある政治家や宗教団体代表者、及び(2)NGO団体代表者を含む当事者の社会的発信、諸活動について精査する。とくに近年では、トランスジェンダーのリーダーがトランスジェンダー向けの高齢者施設、宗教施設を開設する活動例が見られるようになっており、その社会的影響力についてもメディア情報から吟味する。 4. 性現象に関わる映像資料については2020年度において基礎的なカタログを作成したが、2021年度も継続してカタログの充実化に努める。映画は、興行映画と独立系のミニフィルムとに大別される。前年度では興行映画を対象としたが、2021年度では、ミニフィルムもカタログ化の対象に含める。そのカタログを基礎として、インドネシアの映画年鑑における梗概、新聞雑誌における映画レビューの情報を加え、性的なテーマ、性の多様化に着目して分析作業を試みる。
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Causes of Carryover |
(1) コロナ禍のため、2020年度に予定していたインドネシアでの現地調査、その代替案としてマレーシアでの現地調査が困難になったため、2020年度に予定していた予算使用に残額が生じた。2021年度においても、インドネシアでの調査の遂行が見込めない場合には、予算の一部を最終年度の2022年度に繰り越す計画である。 (2) また、日本国内における移動に問題が生ぜず、国内インドネシア人コミュニティでの調査が可能な場合には、2020年度と同様、予算の一部を国内のインドネシア人コミュニティの調査にも充当する。 (3) 2020年度より新たに始めた性現象に関わるDVDなど映像データの収集、それに関連する図書の購入に使用する。
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