2021 Fiscal Year Research-status Report
Anthropological research on the dynamics and diversification of sexual phenomena in Indonesia since democratization
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19K01202
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
伊藤 眞 東京都立大学, 人文科学研究科, 客員教授 (60183175)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 社会人類学 / インドネシア / ジェンダー / セクシュアリティ / トランスジェンダー / ブギス / イスラーム主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 前年度の継続として、今日のインドネシアにおけるLGBT関連の動向を把握すべく、論文・新聞雑誌記事などの資料収集に努めた。注目したのは、LGBTを取り締まることを目的とした法律改正・立案の動向である。とくに2017-2018年には刑法改正案、2020-21年には家族保護法改正案が国会で論議された。結果的にLGBTの性行動が取り締り対象となるまでには至らなかったが、多大な社会的関心を呼び起こし、LGBTへの嫌悪感情を高めたことが諸資料から読み取れた。 2.ただし、LGBTに対する排斥の動きは、必ずしもイスラーム全般に認められるわけではなく、とくにジェンダー平等を掲げる女性イスラーム法学者による「女性ウラマー会議」は、LGBTに対して、比較的寛容な立場をとっていることもわかった。 3.前年度の延長として、インドネシア民主化以降に見られる性表現の自由化に着目し、YouTubeなどインターネット上に公開映像やDVD資料を収集し、カタログ作成作業を継続した。また対象を、興行映画だけでなく、伝統演劇にも対象を広げた。 4. 海外調査の代替策として、宮城県気仙沼市で働くインドネシア人労働者を対象に、主に性・婚姻観について聞き取り調査をした。今回はインドネシア友好協会が主催したインドネシア・フェスティバルに参集する多くの若い男女から話しを聞く機会を得た。こうした集会の機会が異国で働く労働者にとって重要であることも再認識した。 5.茨城県大洗町におけるインドネシア人コミュニティについて、これまでに収集した資料をもとに、「ビトゥン墓地から大洗のインドネシア人コミュニティまで」と題してインドネシア科学院のZoomセミナーで発表した。大洗のインドネシア人コミュニティの中核的メンバーは日系三世が多い。戦前の日本人との繋がりが今日、日本では稀なインドネシア人コミュニティを生み出していることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
1. 計画に遅れが生じた最大の理由は、コロナ禍のため海外への出入国か困難となり、過去2年にわたり、予定していたインドネシアでの現地調査を実施できなかったためてある。また代替策として考えたマレーシアでの調査も同じくコロナ禍のため、実施困難となった。 以上の理由から、つきの2及び3は、現地調査が難しい状況で不足を補うための対応策として新たに進めたものである。これらの作業によって年度当初予想された調査計画の遅れを十分ではないにせよ、補うことか可能となった。 2. 前年度から引き続いて、2021年度においても映像・メディアの分野でも資料収集をおこなった。映像表現(興行映画、伝統演劇)におけるセクシャリティ、トランスジェンターというテーマは、民主化以降のインドネシアにおける性表現の自由化の中で現れたものであり、民主化以降における性観念の動態的理解 を目指す本調査研究を補強する視点として重要である。 また、公開された性表現に対する評論家や観客の反応にも注目し、新聞・雑誌記事を検索し、収集した。 3. 前年度からの継続として、日本在住の比較的若いインドネシア人を対象に、性及び婚姻観に焦点をあて聞き取り調査を行なった。対象は、技能実習生として来日した大半が20歳代の男女である。技能実習生は、いわゆる未熟練労働者と比べて相対的に教育歴が高く、現今のイントドネシアで起きていることにも関心が強く客観的に見ることができるので、若い世代の考え方を知る上では得るものが多かった。
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Strategy for Future Research Activity |
1.インドネシアにおけるコロナ禍の状況は、本年5月現在沈静化の傾向にあり、入国条件も緩和している。沈静化の傾向が当面続くと予測されるので、現地調査の実現可能性を注視しつつ、現地の調査協力者との連絡を密にとり、調査準備を進めていく。 2.現地調査では、つぎの諸項目について聞き取り調査を実施する。(1)村落部のトランスジェンダーからライフヒストリ調査。転機となった人生の分節点に注目する。コロナ禍で生じた生活上の変化についても訊ねる。(2)LGBT調査:都市部のLGBT団体と接触し、団体結成の経緯、活動状況などのほか、イスラーム主義団体との関係についても訊ねる。(3)イスラーム主義団体調査:イスラーム主義団体幹部及び女性イスラーム法学者と接触し、一夫多妻婚、同性婚問題、LGBT運動についての見解を訊ねる。なお、男性中心主義的なイスラーム主義の流れに対して、ジェンダー平等を謳う「女性ウラマ会議」の動向は新たな変化をもたらす可能性があり、特に注目したい。 3. インドネシアでの現地調査が実現しない場合は、代替的に(1)マレーシアでの調査を考えている。マレーシアにおける調査が可能な場合には、当初計画から予定していた比較資料の収集を実施する。本調査研究の主な対象であるインドネシア、南スラウェシ出身住民は、マレーシア(ジョホール州、サば州)に多く移住しているため、同地域における住民からの性意識調査が可能と考えられる。(2)マレーシア調査も実施困難な場合には、前年度までの継続として、日本おけるインドネシア人コミュニティを対象とした調査をおこなう。 4. 前年度までに収集したデジタル化したオランダ行政文書、性現象に関わる書籍刊行物・新聞雑誌記事などの資料、さらに映像資料の収集を充実化させる。解題作業を進め、論文作成の基礎資料にする。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、2020-2021年度に予定していたインドネシアでの現地調査、あるいはその代替案としてマレーシアでの現地調査が困難になったため、前年度までに予定していた国際調査旅費の予算使用に大幅な残額が生じた。 2022年度においては、インドネシアにおいて、あるいはそれが困難な場合、マレーシアにおいて現地調査を実施する予定である。また、日本国内における移動に問題が生ぜず、国内インドネシア人コミュニティでの調査が可能な場合には、2020、2021年度と同様、予算の一部を国内のインドネシア人コミュニティの調査にも充当する。 しかし、1年分の調査旅費としては額が大きいため、次年度においてコロナ禍が緩和しているならば、さらに継続調査をおこなうと共に、南スラウェシ州マカッサルにおいてハサヌッディン大学の協力を得て、研究協力者を交えて研究成果発表会を開催する計画である。
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