2022 Fiscal Year Research-status Report
Anthropological research on the dynamics and diversification of sexual phenomena in Indonesia since democratization
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19K01202
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
伊藤 眞 東京都立大学, 人文科学研究科, 客員教授 (60183175)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 社会人類学 / インドネシア / ジェンダー / セクシュアリティ / トランスジェンダー / ブギス / イスラーム主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 前年度に引き続き、今日のインドネシアにおける①性観念、②LGBTの動向を把握すべく、新聞雑誌記事などの資料収集を行った。政治家、学者、宗教者などの社会発信に注目し、インターネットで閲覧収集した。その結果、イスラーム主義団体やそれを基盤とする政治家には、LGBTを欧米の自由主義思想と同一化し、排除しよう とする傾向が認められた。とくに同性愛的行動に対しては、強い拒否的反応が認められた。一方、イントドネシア各地に伝統的に認められてきたトランスジェンダーは、必ずしもイスラーム側からの厳しい排除の対象とはなっていない。しかし、今年度の調査から、今後の南スラウェシ社会の性観念に影響を及ぼしうる二つの事実が起きていることが判明した。 2. 一つは、伝統的宗教祭司ビッスが、毎年県政府主催で行われる旧王国の神器儀礼から排除されたことである。ビッスの第一の役割は神器儀礼の執行とされており、その役割を奪われることはビッスの存在基盤が脅かされたことになる。ビッスは伝統的トランスジェンダーにおける中心的存在であるゆえ、この問題は今後トランスジェンダー全体に対しても影響を及ぼす可能性がある。 3. もうひとつは、新たなる性自認として「ノンバイナリー」(男/女という二項対立の否定)を自認する若者が登場したことである。大学の新入生紹介の場で、「ノンバイナリー」であると自認した若者が会場から追放されるという出来事があり、大学はその賛同者と反対者で議論が二分された。 4. 従来、性について比較的寛容であるとされてきた南スラウェシにおいても、性的マイノリティに対する許容度は低くなりつつあるが、一方、現地の文化人からは、そうした傾向を懸念し、ビッスやトランスジェンダーのもつ文化的意義を強調し、擁護しようとする動きもある。こうした一連の動向については、東洋大学で開催されたインドネシア研究懇話会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1. 計画に遅れが生じた最大の理由は、コロナ禍のため海外への出入国が困難となり、2020、2021年度に予定していたインドネシアでの現地調査を実施できなかったためである。その間、資料収集など代替的な調査研究を実施したが、それらは本科研においては補足的位置づけであり、それらを生かす意味でも、現地における継続的なフィールドワークが必要である。 2. 2022年度において、ようやく南スラウェシでのフィールドワークが可能となった。その調査から当該テーマの新たな側面も明らかになり、追加的資料データを収集するためにも継続的な調査が必要になった。 3. とくに、上記の研究実績の概要で述べた2及び3の点は、いずれも本科研のテーマである「性現象の動態と多様化」に密接に関わっているため不可欠な問題であり、追加的な継続調査が必要である。 4. 当初計画では、本科研のテーマについて海外研究協力者を含めたセミナーを開催する予定であったが2022年度までに実現するに至っていない。本年度における調査期間中に、現地で本科研に関わる研究発表をおこなう予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 現在、インドネシアにおけるコロナウィルスは沈静化しており、それに伴いインドネシアの入国条件も緩和されている。したがって、この沈静化傾向が継続するならば、本年度夏期以降での現地におけるフィールドワークは実施可能と考えている。したがって、現地調査の実現を前提にして、現地の調査協力者との連絡を緊密にとりながら調査準備を進める。 2. フィールドワークでは、調査事例を追加するため、2022年度において実施したビッス調査の対象地域を拡大する。パンケップ県につづきボネ県でもビッスとトランスジェンダーの調査を進める。また、2019年度調査でおこなったトランスジェンダーの追跡調査についても継続する。 3.「ノンバイナリー」という性自認をもつ若者の存在は、地域社会に根づいた祭司ビッスの存在とは対照的に、南スラウェシに限られることなく、ジャワ島にも見出される。しかし、組織化が進むトランスジェンダーについてはその組織や活動形態が知られているのに対して、比較的若い世代において生起しつつある「ノンバイナリー」については、その実態についてはほとんど知られていない。それに加え、LGBT間において、「ノンバイナリー」はどのように位置づけられているのか、性的マイノリティ内部における関係性、相互的な差別化の問題についても注目し、聞き取り調査を行う。 4. 南スラウェシ以外の地域における「ノンバイナリー」については、ジャカルタやジョグジャカルタなどでは若者文化に結びついていることを考慮し、とくに若い世代の研究者、文化発信者とも連絡をとり情報収集する。 5. 本年度における調査期間中に、現地の研究協力者とともにセミナーを開き、本科研に関わる研究発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
1. コロナ禍のため、2020, 2021年度の国外調査が実施困難となったため、2022年度には国外調査を実施した。しかし、部分的な予算使用にとどまり、結果として予算の一部が次年度まで持ち越されることになった。 2. 当初計画にもとづき、インドネシア(南スラウェシ、ジャワ)における聞き取り調査および資料収集のために国外調査旅費とそれに伴う諸経費(車両借り上げ、人件費などを含む)に予算を使用する。 3. 国内学会参加のための国内旅費に予算を使用する。
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