2019 Fiscal Year Research-status Report
The role of "Hometown" as a cultural and social system playing in the migration and network-making of Chinese overseas from Fuqing
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19K01212
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
張 玉玲 南山大学, 外国語学部, 教授 (60511110)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 僑郷アイデンティティ / 華人と故郷の関係性 / 理念としての「故郷」 / 実体としての故郷 / 宗族 / 儒家思想 / 「福清人意識」 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度では、①華人と故郷との相互関係およびそれに基づく「僑郷アイデンティティ」と移住の関連性について研究するための理論的枠組みの検討、②華人の移住と「僑郷アイデンティティ」が形成・再生産されるメカニズムとの関係の解明、の二点を目的とし、研究調査を行った。 ①に関しては、国内外の関連研究の成果についての検証を行った。これまでの関連研究では、実体としての「故郷」に焦点を当て、そこにかかわる華人の経済的活動およびそれがもたらした故郷の変貌が語られることが多く、今後、華人および華人社会の移動性・多様性・現地化の視点の必要性が確認された。 ②に関しては、日本国内(九州、関東、東北)、台湾および福清市下の複数の村で資料収集及びインタビュー調査を行った。各世代の手記や回想録とともに、同郷会や華僑総会の保管資料、村人の「語り」など可能な限り多方面にわたるデータ収集に努めた。華人と故郷との関係性の形成には、血の繋がりや(移住前の)幼時の記憶など原初的な感情以外にも、宗族の基底にある儒家思想およびそれによって制約される華人の行動様式や人間関係などの要素も複雑に絡み合い、相互に影響してきたことが確認された。一方、故郷とのつながりが断絶したように思われる華人について、一族の移住・定住の歴史と現況について調査を行った結果、実態としての故郷とかかわりがなくなっても、理念としての「故郷アイデンティティ」(「福清人意識」)が居住地(移住地)の華人社会で機能していることが確認できた。 以上の調査研究を踏まえて、2019年度は世界華僑華人研究学会(ISSCO)にて報告を行い、関連の雑誌・書籍に論文を掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画に沿ってほぼ調査研究を進めることが出来たため、現在までの進捗状況を(2)おおむね順調に進展している、とした。具体的には、以下のとおりである。 1.華人と故郷の関係に関する研究の理論的枠組みの再検討については、前項で述べた通りで、華人と華人コミュニティにも着眼する視点の必要性が確認された。 2.華人の移住と僑郷アイデンティティの形成・再生産のメカニズムの関係については、華人移住地(居住地)である日本、台湾および故郷である福清の村々で調査を行い、①各時期(世代)における移民送出の背景や経緯、②移住後華人による故郷の公共事業への参与、③移住国で継承される伝統文化のルーツ(「根」)への希求、④「理想的華人像」や故郷との「あるべき」関係の創出と再生産の諸相について検討を行うことが出来た。 3.家族(一族)の移住・定住の歴史とともに、その家族(一族)につながりのある同郷(村単位~鎮単位)者、現居住地での繋がりなど共時的、通時的に分析するための情報を収集するためのルートを拓くことが出来、かつ少しずつ進めている状況にある。 以上の理由から、本研究計画は、おおむね順調に進展している状況にあるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
以上の調査状況を踏まえて、今後は、以下のように研究を推進していく予定である。 2020年度では、移住・定住過程における「故郷」とのかかわり方や同族・同郷者間連携における「故郷」が機能するメカニズムを明らかにすることを目標とする。 移住国(地域)での同族・同郷者間の連携および文化継承・経済活動などに現れる「故郷」についての表象と語りについて世代間、地域間の異動について考察するために、家族の移住史をまとめるために、福清出身華人の移住地であるインドネシア、香港および日本でインタビューを行うことと、各地の福清出身者華人のコミュニティによる文化活動への参与活動や同郷団体の連携について聞き取り調査を行う予定である。 ただ、2020年度も、感染症のパンデミックなどによって日本国内外での調査が実施不可能になった場合は、インターネット通話などオンラインでインタビュ―を実施することを試みる必要があるだろうが、本来のフィールドワークで得られる情報のほんの一部しか入手できないことを考えれば、今年度の計画を縮小し、2021年度に実施することも視野に入れておく必要がある。
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Causes of Carryover |
2月~3月に予定していた海外での調査はCovid19が原因でキャンセルとなったため、2019年度残金が生じた。これを「次年度使用額」として2020年度、関連書籍や現地資料の購入に回す予定である。
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