2023 Fiscal Year Annual Research Report
軍事環境下の子どもの医療人類学的研究─沖縄戦から連なる暴力的状況に着目して
Project/Area Number |
19K01224
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北村 毅 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 教授 (00454116)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 沖縄 / 医療人類学 / 子ども / 軍事環境 / 沖縄戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、沖縄戦による人的・社会関係資本の喪失、ならびに、米軍統治下の生活環境の軍事化に伴う社会変動によって、子どもを取り巻く環境がどのように変化してきたのかを検証し、軍事環境が子どもに与えてきた心理的影響の実態を明らかにすることを目的とするものである。 研究期間の全体を通して、戦時体制下ならびにその最終局面としての沖縄戦で子どもが置かれた状況に注目しながら、「子ども」という視点から沖縄戦の証言を整理し、子どもの戦争体験の特質について検討した。具体的には、本研究の理論的方向性を明確にするために、子ども時代の戦争体験、ならびに、子どもと軍事環境に関する先行研究の収集を行った。さらに、図書館、公文書館、行政機関、研究機関などを通して、子どもの戦争体験や占領体験、戦争孤児、子どもの暴力、子どもに対する暴力、子どもの貧困などに関するデータを収集し、それらの整理・分析を進めることで、沖縄固有の軍事環境を踏まえながら、子ども時代の戦争・占領体験と戦後体験の特質について検証した。 コロナ禍においては、資料の整理・分析や海外の先行研究の検討が中心となった。具体的には、戦争と子ども虐待、ならびに、軍事環境と子ども虐待に関する先行研究を渉猟し、検討を進めたが、それにより沖縄固有の軍事環境を踏まえながら、子ども時代の戦争・占領体験と戦後体験の特質を理解するための研究的基盤を築くことができた。とりわけ、ドイツにおける研究状況は参考となり、世代を超えた戦争の心理的影響を検証するための知見と理論的な手がかりを得ることができた。 研究期間の過半が自由な移動を制限される時期に重なったため、現地でのフィールドワークは最小限しか行えなかったが、そのような中でも、沖縄戦中に少年兵として動員され、戦後精神疾患を発症した男性から戦後の生活史を詳細に聞き取りできたことの意義は大きかったといえる。
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