2023 Fiscal Year Research-status Report
中国のポスト社会主義的状況における社会的弱者の「文化」創造と共生論理
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19K01229
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
奈倉 京子 静岡県立大学, 国際関係学部, 教授 (70555119)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 中国 / 知的障害 / 民間組織 / 共生論理 / 文化創造 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国における障害をめぐる共生論理と文化創造について、周辺地域・国との交流や影響を調査するために、台湾(台北)の東呉大学および知的障害者の親の会、慈善組織、知的障害者のスポーツ組織(スペシャルオリンピックス台北)事務所を訪問し、活動の理念や実績についてインタビューをおこなった。 台湾は、日本の福祉作業所を手本にしており、しばしば日本へ視察へ来て、ノウハウを学んでいることがわかった。台北の親の会の会長は、当事者家族ではなく、善意にもとづき長年障害のある子をもつ親を支えていた。親の会の活動による下からの力の形成により福祉作業所ができた事例もいくつかみられた。この点は、中国の民間組織成立の経緯とは異なっていた。 他方で、スペシャルオリンピックス台北については、国の法律に準じた組織化がなされており、政府主導で活動が運営されている側面がみられた。このため、学校(支援学校および普通学校)との連携がしやすくなっているメリットがあるが、一方で、児童・生徒の活動は支援学校単位でおこなわれており、コーチも教師が兼ねていることから、管理の性格が色濃く、児童・生徒の主体性、自立心が育ちにくいデメリットもみられた。 中国との関係については、中国も同様のスポーツ組織(スペシャルオリンピックス)に加入しているが、国際大会におけるブロックが異なり(中国は「アジア」、台湾は「太平洋」)、知的障害者の共生の分野での協力関係は見られなかった。研究者や民間の有識者との交流も皆無とのことだった。 その他、中国の南京大学の研究者を招へいし、社会的弱者(戦争被害者)を救助する民間組織の活動について講演会を開催し、本研究課題の対象である、中国の社会的弱者と民間組織の関わりについて議論することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在日中間では、本来施行されていた15日間の査証免除が停止されており、ビザ申請が厳しくなっている。中国では、邦人や日本の大学や企業で働く人が拘束される事件が多発しており、学術交流に困難をきたしている。長期にわたって中国で生活して経験があること、加えて本研究課題は、知的障害者を支援する民間組織を対象としており、敏感なテーマの1つである「市民社会」にも関係することから、リスクがあり、中国での調査を実施できずにいる。そのため、計画書の調査内容や成果を現地の関係者に報告することがなかなかできずにいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も政治的理由により中国での調査が実施できない場合は、昨年度に調査をした台湾での関連調査をすることで、中国文化地域の障害認識について検討するつもりである。また、かつて、中国の知的障害者を支援する団体を受けれたことのある、日本の団体を訪問し、当時の研修内容などに関する聞き取りを行なうことも予定している。
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Causes of Carryover |
中国の政治的な理由により、渡航が困難であったため次年度使用額が生じた。次年度も研究者の中国への渡航は慎重にならざるをえないため、調査計画を一部変更し、海外へ移住した中国系移民の障害者支援組織と中国の民間社会・政府との関わりを調査するために交付金を使用する。調査は、中国系移民が多く、近年中国との関係を深めているマレーシアを予定している。中国のグローバル化が進み、本研究が対象とする民間組織(特に障害者支援組織)についても、海外の思想・理念の影響を受けている。この観点からみると、中国系移民の慈善組織と中国との関係性を調査することは意義がある。
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